地下鉄(メトロ)に乗って
父が高名な企業家で息子の主人公は平凡な勤め人、高圧的ですぐ暴力をふるう父とそれに反発する主人公、実は陰で主人公に期待している父等々、父と子の関係も『流星ワゴン』と驚くほど似ています。『地下鉄に乗って』の方が発表が早いので、真似をしているとしたら『流星ワゴン』でしょう。少なくとも重松清は『流星ワゴン』を書く際に『地下鉄に乗って』をかなり意識していたはずです。ただ、『流星ワゴン』の場合は主人公(=息子)とその父の関係に加えて、主人公(=父)とその息子の関係も重層的に描かれる点が大きく違います。
この本のタイムスリップの仕掛けは書名にもあるとおり「地下鉄」です。ある日地下鉄の通路に見かけない出口を見かけて、そこを主人公が上って行くと...。ってわけです。また『流星ワゴン』と比較して申し訳ありませんが、こちらの方がタイムスリップの仕掛けとしてはずっとスマートですし、すんなりと入ってきます。具体的な作品名としては、今は萩原朔太郎の大傑作『猫町』しか思い出せませんが、見知らぬ道を見つけて入り込むと地図にものっていない不思議な場所に迷い込んでしまうという、昔からある伝統的な手法の延長ですしね。
この本は札幌出張の往復にかけて読もうと思って持っていたのですが、読み始めたら...
--------------------
...あまりにおもしろくて一気読みしてしまい、"往"の途中で読み終えてしまいました。おかげで、"復"用に札幌で本を一冊(※)買う羽目になりました...<(@^_^@)
※:前から気になっていた法月綸太郎さんの『生首に聞いてみろ』
さすが浅田次郎。物語作りは天下一品です。その抜群のストーリーテリングに加えて、主人公とその周囲の人間設定も魅力的で、特に主人公の勤め先の社長がいい味出してます。
ただ、父と子の和解というテーマの処理には不満が残ります。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、読んだ人だけにわかるように言っておくと、ひとつは描かれる時代に関係することで、ひとつは描く視点に関すること、最後に落差の問題です。
そのせいもあってか、思ったよりほろりとくる場面が少なかったのも意外でした。
でも、ラスト(大トリではなくって、その前のトリに相当する部分)はびっくりでした。びっくりするとともにほろっとしました。これもネタバレになるので詳しく書けないのがもどかしいですが、地下鉄に例えれば、単線だと思ってたらいきなり脇を別の電車が通り抜けたって感じでしょうか。
【じっちゃんの評価:★★★】