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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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厭魅の如き憑くもの(本編)



9/5に予告編を出した『厭魅の如き憑くもの』のレビュー本編です。

舞台は、古い因習の残る山間の閉鎖的な村。....とこう書いただけでミステリファンの方は、ははーん、横溝正史的おどろおどろしい世界と物語展開を想像されるのではないでしょうか? でも、この作品はそうした読者の予断をいい意味で裏切ってくれます。

その村では神隠しや憑き物が頻繁に発生し、憑き物落し専門の巫女までいます。こう書くと、引いてしまう方もあるかもしれません。私もそうでした。最初のうちは、読みながら「嘘くせー、リアリティなーい」と正直ちょっぴりうんざりしました。でも、作者は民俗学の知識を駆使して(その博識ぶりはすごい)そこにリアリティーを与えていきます。その作者の工夫と筆力に加え、その"嘘くさい"雰囲気にもなじんできたのでしょう、私はいつしか作品世界に引きずり込まれていました。

--------------------
私、はっきり言ってかなりの怖がりです。お化け屋敷は怖くて入れませんし、ホラー映画もめったに観ません。たまに観ると、怖い場面で文字通り座席から飛び上がったります。TVでも、例えば『ほん怖』などを観ていると、ショッキングな場面で数十センチ後ろに飛んだりするので、子供たちによくからかわれます。でも、なぜかホラー小説ではあまり怖いと思ったことはないんですよね。

でも、この小説はめちゃ怖かったです。例えば、巫女・紗霧が憑き物落としの後に依代を流しに行った川辺の道で後ろから見えない何ものかにひたひたと追われるシーン。例えば、聯太郎、聯三郎兄弟の忌み山における冒険と恐怖の体験。ページをめくるのが怖いと思ったのは初めてのことでした。その他にも怖いシーン満載ですので怖がりの方はご注意ください(だからと言ってこの作品を敬遠したら一生の損ですぞ)。

なぜこんなに怖いんでしょね。無い知恵を絞って想像するに、作者の描く怪奇話が、無宗教と言われる日本人が実は心の奥底で持っている原始的宗教心に触れるようなものであること、そしてその超常現象をばかばかしい迷信と感じさせないための周到な準備(民俗学的な裏づけ)、そして加えるに作者の筆力のせいではないでしょうか。

で、怖いのはいいんですが、この作品はホラーと"ミステリ"の融合のはずでした。だのにミステリらしい事件はいっこうに起きません。物語りも半分近く過ぎ、"ミステリ"はどこへ行っちゃったんだろうと思い始める頃、怪死事件が起きます。

今殺人事件ではなく怪死事件と書いたのは、その状況がとても人間業で起こせるようなものではなく神の祟りとしか思えないような類のものだからです。これってほんとにミステリになっていくのかなあと一抹の不安が残ります。それ以降も怖~い怪奇現象が続くのでなおさらです。

そうこうしているうちに第二、第三の事件が起き、ようやくミステリっぽくなってきます。でも、ほんとに怪奇現象としか思えない事象や事件をこんなに起こして、作者はどう風呂敷をたたむつもりなんだろうと心配になってきます。

でも、ご心配なく。作者は広げた風呂敷を見事な手つきで鮮やかに畳んでいきます。

その畳みかたがまた凄くて、ひとつの解決が出されたかと思うとそれがひっくり返されて次の解決が提示されと、探偵役の推理が何度もひっくりかえされて再構築を余儀なくされます。しかも、ひっくり返される解決が十分納得のいくもので、そこで終わっても問題ないんじゃないかというレベルのものなんですよ。ひょっとして作者は最後まで科学的な解決を与えないつもりなのではないか、与えないままホラーとして終えようとしているのではないか。そう思い始めた頃、やっと真の解決が提示されます。

その解決にはもう唖然呆然でした。

「そんなのあり~!?」と呆然となって思考停止していると、作者はきちんとフォローしてくれます。その懇切丁寧な解説によって、実に巧みに伏線が張られていたことを思い知らされます。もう「やられた」としかいいようがありません。この解説を読んだら誰しももう一度最初から読み返したくなること請け合いです。

さらに、この作品のえらいのは、殺人事件以外の、とても科学的説明などつきそうもない超常現象(過去の神隠しや登場人物の怪奇体験)にもきちんとした科学的解決を与えてくれることです。そちらの解決も実に鮮やかかつ呆然とさせられます。

こうして、この作品はちゃんとしたミステリ、それも相当完成度の高いミステリとして完結します。その上で作者はホラーとしての余韻もちゃんと残してくれます。

ホラーとしての不思議感、怖さ、ゾクゾク感、ミステリーとしてのスリル、知的興奮をあわせ持ち、真にホラーとミステリが融合した稀有な作品と言えましょう。

この作者の他の作品を読むのが楽しみです。

【じっちゃんの評価:★★★★☆】

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COMMENT

訪問ありがとうございました^^

あんなオバカなブログですが

ヨロシクお願いいたします^^

ぐしおさま
ご訪問&コメントありがとうございます。

>あんなオバカなブログですが
いえいえ、大変おもしろく読ませていただきました。

またのご訪問をお待ちしてます。
今度は私の記事にもコメントいただけるとうれしいです。

三津田さんの作品は以前に1冊だけ読んだ事があり、
独特の雰囲気と凝ったつくりが印象に残っています。
コレ、すごく面白そうですね!
レビューから、じっちゃんさんがお読みになっている間の気持ちの動きが伝わってきて、興味をそそられました。
私もホラー小説を読んで、怖いと思うことはない方ですが
ページをめくるのが怖いほどとは、楽しみでもありますね。
ミステリ部分も期待しちゃいます~。

>真にホラーとミステリが融合した稀有な作品と言えましょう。

すごーく読んでみたくなりました!

のばらさん、コメントありがとうございます。
>ミステリ部分も期待しちゃいます~。
あんだけ怖がらせて最後はきちんとミステリしちゃうというのがすごいです。
あっ、これ本文で書けばよかった!

>すごーく読んでみたくなりました!
ぜひぜひ読んでみてください。
でもでも、注意!
この本は前半、いまどきありえねえなあというところや、もたもたしてるなと思われるところがあります(私はせっかちな性格なので少しいらいらしました)。そこんとこ、ゆったりとした気持ちであせらずじっくりと読まれることをおススメします。
(って、こういう注意が必要なのはせっかちな性格の私だけかもしれませんが)

ここでははじめましてm(_ _)m
ホラー&ミステリは大好きな分野ですので
これは是非とも読んでみたいと思いました♪
民俗学やら神話はけっこう得意分野ですしね^^

シンさん、(ここでは)はじめまして。
>ホラー&ミステリは大好きな分野ですので
>これは是非とも読んでみたいと思いました♪
ぜひ読んでご感想をお聞かせください。

>民俗学やら神話はけっこう得意分野ですしね
そうですか、だとしたら楽しめると思いますよ。
(逆に、作品のアラが見えたりして(;^_^A  )

でも、こうして多くの方にススめまくったのはいいけれど、
皆さんの読後の反応を思うとホラーより怖いです。

こんばんは。
私もこの作品、怖々読んだ口です(笑
表紙がイラストだったので、初めは若い作家なんだろうかとかちょっと舐めてかかったのが運の尽き(?)。読んでみたら全然甘くなくて…。
ホラーを読んで本気で恐くなることは滅多に無いんですが、この作家はうまいですね。早く片を付けてくれ!現実の問題として解決するのよね!?ってソワソワし通しでした。
個人的には、蛇神に興味があって、先んじてこの本で参考資料に挙げられてる本を読んでたこともあり、民俗学のウンチクもにやにやしながら読みました(笑
8日には続刊が出たらしいですね。そっちも読まねば!

ヒトヤさん、いらっしゃいませ

>早く片を付けてくれ!現実の問題として解決するのよね!?
>ってソワソワし通しでした。
ですよね、ですよね!? 同感ですぅ。

>個人的には、蛇神に興味があって、先んじてこの本で参考資料に挙げられてる本を
>読んでたこともあり
すごい、エライ!

>8日には続刊が出たらしいですね。そっちも読まねば!
読まねば!

こんばんは^^
いざ検索してみると値段の高さに驚きましたが
最近はホラー週間に入ったようで抑えがきかず
先ほど注文してしまいました^^
今から楽しみです。

シンさん、コメントありがとうございます。

>いざ検索してみると値段の高さに驚きましたが
申し訳ないです(って私が謝ることもないですが)。ハードカバーはね、どうしてもね。ハードカバーにしても高いですが、その分中身も詰まってますし(トラベルミステリーなんかと違って改行も少ないですし)、また内容も濃いですので。

>先ほど注文してしまいました
ありがとうございます。

>今から楽しみです。
楽しんでいただけることを祈っております。
(どきどきです)
のばらさんへのコメントにも書きましたように、くれぐれもあせらずにゆったりした気持ちでお読みくださいませ。

tanuponと申します。拙Columbus BlogへのTBありがとうございました。
「まじもの」はホントに怖かったですね。三津田はわたしの好きな作家でもあります。

時代・歴史小説等にもご興味がおありとか、三国志とかはどうですか?もしそうなら趣味が合うかも知れませんね。
今後ともよろしくお願いします。後日、リンク等させていただきます。

tanuponさん、いらっしゃいませ。
>「まじもの」はホントに怖かったですね。
です~。『厭魅の如き憑くもの」は好き嫌いが分かれそうな気もするので、tanuponさんのように支持者がいると心強いです。

>三津田はわたしの好きな作家でもあります。
これから私も恐らく好きな作家になるはずです。

>三国志とかはどうですか?
もう大好きです~。聖典(吉川英治のやつ)は2度読みましたし、今は、まさに北方謙三の『三国志』を読み始めたところです。

>今後ともよろしくお願いします。
こちらこそ。

>後日、リンク等させていただきます。
Welcomeです。

おはよです^^
先ほど読了しました。
月並みな言葉ですみませんが、すごい面白かったです!
今、あらためてじっちゃんさんの書評を読んだのですが
抜群にこの作品を表現できてますね。
>真にホラーとミステリが融合した稀有な作品
まったくもってその通りの素晴らしい作品だと思いました^^
ありがとうございますm(_ _)m

シンさん、おはようございます。

>月並みな言葉ですみませんが、すごい面白かったです!
それが最大の褒め言葉ですよね。実際それ以外の言葉はいらないんですが、レビューするとなるとそうもいかず、呻吟しながら言葉を重ねています。

>今、あらためてじっちゃんさんの書評を読んだのですが
>抜群にこの作品を表現できてますね。
ありがとうございます。そう言っていただけると、涙がでるほどうれしいです。苦労して書いた甲斐があります。

>まったくもってその通りの素晴らしい作品だと思いました
三津田さんの他の作品、特に最新作の『 凶鳥の如き忌むもの』が楽しみですね。

おはよです。
先ほどから書評を書こうとしてるのですが
あらすじはなかなかに難しいし、
感想はじっちゃんさんと重なるしで
どうしたものかと悩み中です(^^;

>凶鳥の如く忌むもの
是非とも読んでみたいです、楽しみです。

シンさん、いらっさい。

>先ほどから書評を書こうとしてるのですが
>どうしたものかと悩み中です(^^;
悩みましょう。人間、悩まなくちゃダメです。
なんちゃって。
後から感想書くの難しいですよね。

>是非とも読んでみたいです
です。

TBさせてもらいました^^
と、やっぱり感想はじっちゃんさんと被りまくりでした><

TBさせて頂きました。
中々面白かったですが、途中ちょっとだれるなあ、と思いました"(^^;"。

たかさん、読まれたんですね~。
私は途中が面白かったですね、逆に物語が膨れていく感じで。
中だるみ感はまったくなかったです。
やっぱり、人それぞれですね。だから面白いんですねえ。

はじめまして。山や川辺で追われるシーンは、ほんとうに怖かったですね。背後の恐怖の根深さを感じさせられました。

お返事遅れてゴメンナサイ。
>山や川辺で追われるシーンは、ほんとうに怖かったですね。>背後の恐怖の根深さを感じさせられました。
まったく同感です。
身体の毛がそそけ立つような恐怖を久々に感じました。

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厭魅が如き憑くもの

ブログ「たま店長のオススメ本」の管理人でブログ友達の「たまの猫」さんのところで、

厭魅の如き憑くもの

厭魅の如き憑くもの を読む。三津田信三の本格探偵小説。「厭魅」は「まじもの」と読みます。 昨年、ホラー的本格という事で話題になった様なので、読んでみました。初・三津田信三。結構面白かったであります。実はそれほど期待していなかったのですが、よく出来てる....
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