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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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続・子どもたちは夜と遊ぶ


"続"っていっても『子どもたちは夜と遊ぶ』の続編てわけではありません。前回末娘の感想を掲載したのに対し、今回はオヤジ(私)が感想を書いたってだけです。

今回は最初に結論を言ってしまいます。

この本、読んでてイタイです。読み続けるのがつらくなります。でも、読み始めたら途中でやめることはできません。イタイけど面白いのです。

読み続けるのがツライのにやめられない。その葛藤が読み手の中に強い緊張感を呼び起こします。そういえば前作の『冷たい校舎の時は止まる』もそうでした。若いのに作者は読者の心をわしづかみにして離さないテクニックを自家薬籠のものとしているようです。

この作品はある大学(恐らく一流の)に通う大学生たちの周辺で起きる無差別連続殺人事件を描いたもので、『冷たい校舎の時は止まる』よりも本格ミステリに近づいています。

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物語ははっきり言ってとても不自然です。全員が全員美形で賢い登場人物の、フツーではないキャラ、ありえない言動、お芝居めいた会話、考えられない犯行動機、強引なトリック。

でも、それがあまり不自然に感じられません。なぜでしょうか。ひとつには作者の人物造形のうまさによって登場人物に深く感情移入させられ、その結果登場人物の体験を読み手自身の体験のように感じ取り、不自然な事象が現実味を帯びて感じられるのではないでしょうか。さらには作者の文学的に洗練された巧みな文章も寄与しているでしょう。

先ほど「イタイ」と書きました。そのイタさの理由はさまざまです。

まずは、犯人を信頼して死ぬ寸前まで殺されるなどと思っていなかった被害者の、殺されるとわかった時の心情を思ってのイタさ。無差別殺人事件なので、いわば殺されるためだけに登場する人物もいるのですが、それらの人物造形にも作者は手抜きをしません。その人物の性格、育ち、生活環境、暮らしぶり、悩みや心情、そういったものをきちんと書き込んで、その人物を生身の人間として浮き立たせませす。だからこそ、その理不尽な死に読み手はイタさを感じてしまうのです。

さらには。もろくも繊細な(そして読み手が感情移入している)登場人物がさまざまな事件やできごとで深く傷つくことへのシンパシーによるイタさ。

友情の陰にちらつく嫉妬、軽蔑、怒り、疎外感、悪意。それもイタイ。

恐がりな私には残酷な殺人シーンもそれだけでイタイ。

もちろんイタイだけではなく、ミステリとしての結構もなかなか見事です。

インターネットを使った犯行声明。そこに描かれた犯人の異常な過去。見立てによる殺人。次の被害者を暗示した犯行予告。さまざまなギミックにより作者はサスペンスを盛り上げます。それらに加えて、学内で起こる殺人とは関係のないミステリアスな出来事もさらに興趣を盛り上げます。

とどめは主要登場人物に対する殺人予告です。そこからはもうハラハラドキドキで誰しも一気読みになるでしょう。

トリックはそれほど独創的ではありません。が、そこまでのストーリー作りが巧みなため、十分に衝撃的です。犯人の解明にいたるロジックもよく考えられています。

こう書くと100点満点のように思われますが、残念ながら難点もあります。

最初に書いた不自然さもそのひとつですが、最大の難点は動機に比べて犯行が過激すぎることです。少なくとも私には納得できるものではありませんでした。トリックにも、アンフェアで不自然に思われるものや、ミエミエでまさかほんとにそうなのかよというようなものがあります。

また、警察の捜査がずさんかつあまりに無力なのも気に入りません。警察を描くにあたっても作者の人間造形はすばらしく、魅力的なキャラに仕上げています。それが返ってあだになって、その魅力的な人物の無力さが読み手を失望させます。警察を無力な存在とするなら、魅力的な人物造形はせずに、無機質な存在として描いた方がよかったように思います。

そういった点を割り引いて次のような評価になりました。

【じっちゃんの評価:★★★】

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COMMENT

むむ、素晴らしい分析ですね。
良い点も悪い点も納得できます。
人物造形、文章、話の運び方、辻村さんは巧いですね。
じっちゃんさんのおっしゃるイタさが辻村さんの最大の持ち味
ではないかと思います。残酷なシーンには私もこんなのも
書くんだ、と驚きましたが(^^;)

のばらさん、いらっしゃい。
再び辻村さんを読む機会を与えてくださってありがとうございます。

>良い点も悪い点も納得できます。
ご同感いただきほっとしました。

>人物造形、文章、話の運び方、辻村さんは巧いですね。
まったく、「若いのに(そしてキレイなのに)」と感心します。

ホント、この作品も★★★★にしようかと散々迷ったのですが、
大森望が激賞していた次回作の『凍りのくじら』まで待ってみようと
☆ひとつ減らしました。

『凍りのくじら』が大変楽しみです。

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