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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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武揚伝


幕末と言えば、戦国時代と並んで最も歴史小説の舞台となることが多い時代です。スターもそれこそ星が降るほどいて、人気No.1の坂本竜馬を筆頭に西郷隆盛、勝海舟、徳川慶喜、土方歳三、川路聖謨、村田蔵六(大村益次郎) 、島津斉彬、ジョン万次郎、清水次郎長、福沢諭吉、吉田松陰、伊藤博文、間宮林蔵ともう目白押し。ちなみに今挙げた人物は、私が過去に読んだ(あるいは読みかけた)小説の主人公になった人々であります(※)。
 ※こうしてみると、結構私も読んでいるものであります。

しかし、幕末の主要登場人物でありながら、歴史小説の主人公としてはほとんど取り上げられていない人物がいます。それは・・・・・・・・もったいぶったところでダメですよね、だって記事のタイトルになってるんだもん。そう、榎本武揚です。

榎本武揚とはどういう人物だったか。自分の記憶にのみ頼って書いてみると・・・・。

榎本武揚は、維新の際には幕府の側の人間として官軍と戦い、鳥羽・伏見の戦いで幕府が敗れるや、仲間(中には新撰組副長の土方歳三もいた)とともに北海道(当時は蝦夷)に渡り、箱館の五稜郭に籠もって蝦夷共和国を樹立、自ら総裁となった。その後攻め込む官軍に敗れ降伏するも、その才能を惜しまれて助命されたばかりか、その後特赦によって出獄すると、政府の要人として取り立てられ大活躍した。・・・・・・・てなところでしょうか。

この榎本武揚を主人公にした作品、それも長編となると安部公房の『榎本武揚』しか思いつきません。なぜでしょうかね。同じ幕府側の人間でも、勝海舟、徳川慶喜、新撰組なんかはよく主人公になるんですけどね。武揚も維新の流れの中にはいましたが、ど真ん中ではないせいですかね。竜馬や西郷、勝海舟などのように維新に大きな貢献をしたわけでもなく、新撰組のような悲劇性もないですしね。

でも、私にとって榎本武揚は以前から気になる存在でした。賊軍の旗頭のひとりなので、固陋な人物として小説などでもあまりよく言われない感があるのですが、「固陋」を逆に見れば、時流に流されず自分の信念を貫いた信念の人ですからね。顔かたちもハンサムでカッコいいってイメージで。実際残された写真を見ると、榎本武揚はハンサムな人だったらしいです。
 ※榎本武揚の写真はこちらでどうぞ。

その武揚を冒険小説の名手・佐々木譲が取り上げてくれました。それが、この『武揚伝』です。

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佐々木譲といえば、私も読んだ傑作『ベルリン飛行指令』『エトロフ発緊急電』『ストックホルムの密使』(太平洋三部作)の作者ですからね。期待は高まります。

このレビューを書くためにWikipediaで調べたら、佐々木さんは北海道のご出身なんですね。それも武揚を取り上げた動機になっているんでしょう。しかも、現在なんと東京農業大学の客員教授! 何で驚いてるかって? 東京農業大学は榎本武揚が創設したんです。(って、私も今Wikipediaで知ったばかりですが)

『武揚伝』は文庫で全4巻。私はまだ1巻を読み終えたばかりですが、もう感想書いちゃいます。4巻読み終わるまで待てないので(;^_^A

第一巻を読んだ限りでは、佐々木譲は武揚を徹底的にいい奴として書くつもりみたいですね。冒険小説的なヒーロー伝としてスカッとした展開が期待できそうです。

一方で、勝海舟のことは、大した実力もないわりに自己顕示欲が強く、出世や自己保身のためには何でもやる策略家、つまりとてもイヤな奴として描いています。以前から海舟を尊敬する人物No.1としている私はちょっと複雑というか、はっきり言って心外な気持ちです。この後作者の海舟に対する悪口攻撃に耐えられるかちょっと心配になったりもします。耐えねば、耐えねば。

勝海舟のことを除けば、この小説はとっても気持ちがいいです。すがすがしいです。

黒船の来訪によって時代は大きく動き始めています。そうした動きに武揚も敏感に反応し、ときめき、興奮し、自分も何かをせずにはいられないような居ても立ってもいられない気持ちになります。

黒船が来たといえば、わざわざ遠くまで足を運んで見に行く。これからは西欧のことを学ぶのが重要と判断すれば親の目を盗んで江川太郎左衛門の塾に通う。アメリカ帰りのジョン万次郎がやってくれば、話を聞きに押しかける。蝦夷地調査の旅(※)を打診されれば、一も二もなく引き受ける。長崎海軍伝習所の開設が報じられると自ら売りこんで伝習生となる。そしてついにはオランダにまで留学生として出かけます。その旺盛な好奇心や行動力には驚嘆します。
 ※当時にあっては南極探検並みの冒険です。

西欧の文物に振れる武揚のときめき、興奮はこちらにも伝わってきます。初めて見る蒸気機関に感動し、初めて飲むワインやビールに目を丸くし、初めて食べる缶詰に驚嘆する。そして、誰もが平等で誰もが政治に参加できる欧米の民主制に憧憬の念を覚える(※)。
 ※この時の感動が武揚をして後に蝦夷共和国を作らしめる大きな原動力になっているのでしょう。

こうしたときめきや興奮は武揚だけのものではありません。当時の心ある若者は多かれ少なかれ共有していたものです。彼らを駆り立てるもの、夏雲のように沸き立つものがあったのです。「青雲の志」と呼んでもいいでしょう。『武揚伝』を読んでいると、自分もこんな時代に生まれたかった、こういう若者たちと時代を共にしたかったという思いが湧いてきたりします。

一方で、黒船来襲と開国の要求という未曾有の国難の中にあって、当時の日本人たち、特に幕府の高官たちが、意外に冷静かつ客観的に情勢を分析し、的確に行動していることにも今さらながら驚かされます。海外の情勢にも意外に詳しく、早くも地政学や経済学の知識を持っており、そうした知識から開国はやむを得ないものと判断し、着々とそのための準備を始めています。海軍の前進である長崎海軍伝習所を開設したのもその一つです。もちろん若干の迷走もありますが、国益に沿っておおむね的確に行動しています。

かえって、後に正義の象徴としてもてはやされる勤皇の志士たちの方が、勤皇攘夷という狭くて近視眼的な思想に凝り固まって、国益を一切考えない非現実で狂信的な行動をとります。そうした人たちが最後には勝って、勝ったかと思うと手のひらを返したように欧化を進めるのですから、世の中わかりません。もしあの時幕府側が勝っていて、薩長の田舎侍たちの代わりに新しい時代を築いていたら、というifが頭をよぎります(※)。そうしたら、ノーブル・オブリージュの精神がもう少し残って、今の世の中もっとよくなっていたような気もします。
 ※そう言えばこういうifをテーマに書かれた小説ないですね。私が書こうかしらん。

『武揚伝』第一巻は武揚たちが留学先のオランダに到着するところで終わります。オランダの人たちはとても親日的で武揚たちを大歓迎します。港を入っていくに際し、武揚たちの乗る船の船長(オランダ人です)はあるものをメインマストに掲げます。それは、日本国旗と定められたばかりの日章旗です。その日章旗を目にしたオランダ人たちは一斉に声をあげます。「イヤッパニース・ヒース・ヒース・フウラ!」、「日本人万歳!」と。思わず、武揚たちとともに目頭が熱くなるのを覚えました。

【じっちゃんの評価:★★★★(1巻だけの暫定評価ですが)】

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COMMENT

失礼致しました。

順序を間違えました。
先にご挨拶してからブログ名の変更に取り掛かるべきでした。
年だけとる分、常識に疎くなってしまっていて、お恥ずかしい~。
遅ればせながら失礼のお詫びに伺ったのですが、もうリンクの訂正をして下さっていて・・・恐縮です。
お手数をお掛けしました!スミマセン。

梓の小鳥さん、おはようございます。

そんなに恐縮されなくて結構ですよ~。
タイトルの変更には「なるほど合点!」と感心したくらいで、
迷惑なんてまったくかかっていませんから。

佐々木譲さんの作品は現代ものと「黒頭巾旋風録」を読みました。
そういえば、すべて北海道・蝦夷地が舞台でしたね。
榎本武揚、ドラマや小説でもあまり良いイメージないですね。
やはり、志に殉じて散る人の方が日本人には人気なんでしょうか。
『武揚伝』面白そうですね。読んでみたいかも(^.^)

>※そう言えばこういうifをテーマに書かれた小説ないですね。私が書こうかしらん。
書いて書いて~(≧∇≦)買いますから、サインお願いします。

>佐々木譲さんの作品は現代ものと「黒頭巾旋風録」を読みました。
「黒頭巾旋風録」は積ン読本のひとつになってます。

>そういえば、すべて北海道・蝦夷地が舞台でしたね。
へえ、「黒頭巾旋風録」も?

>榎本武揚、ドラマや小説でもあまり良いイメージないですね。
>やはり、志に殉じて散る人の方が日本人には人気なんでしょうか。
そうなんでしょうね。

>『武揚伝』面白そうですね。読んでみたいかも(^.^)
お気に召したらどうぞ。

>書いて書いて~(≧∇≦)買いますから、サインお願いします。
乗せないでください。ホントに書いちゃいますよ。

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