プロフィール

じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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最後の最後に大ホームラン-『オリガ・モリソヴナの反語法』

◆レビューに入る前に◆
今回から読んだ本はBooklog提供の"本棚"に保管することにしました。
 ・その"本棚"をアクセスすることによって私が07年1月1日以降に読んだ本(途中で挫折したもの
  も含む)を見ることができます。
 ・本の画像・リンクもBooklogのものを利用しています。
 ・これに伴い、★による「じっちゃんの評価」の基準もBooklogのもの(=Amazonのもの。☆な
  しの5段階評価)に合わせることにしました。ただし、当面過去の記事は従来の評価基準のま
  ま残しておきます(そのうち変更予定)。評価基準については「凡例」欄をご覧ください。
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米原 万里 / 集英社 / ¥780
Amazonランキング:1573位
Amazonおすすめ度:


読後呆然としてしまってしばらく身動き(みじろぎ)ができなくなるような作品に出会うことがたまにあります。2006年も最後の最後になってそういう呆然本に出会いました。ロシア語通訳として知られ、昨年亡くなられた米原万里さんの『オリガ・モリソヴナの反語法』です。

この作品は米原さんが少女時代を過ごしたチェコスロバキアの経験を題材にしたフィクションです。米原さんは最初ノンフィクションに仕立てることを考えられていたようですが、資料不足などで埋まらない空白が多く、仕方なくフィクションにされたとのこと。しかし、それが、物語の結構が大きくなるなど、いい方向に働いているような気がします。

米原さんがチェコにいたのはフルシチョフによる「雪解け」の時代ですが、その前のスターリンによる恐怖政治時代の記憶も生々しく残っています。米原さんは、ご自身が過ごした雪解け時代のチェコの生活や出来事を活き活きと描写しながら、そこから遡って、過酷なスターリン時代を経験した人々の波瀾万丈の物語を緊迫感を持ってスリリングに描きます。そのスターリン時代の人々の物語を次第に明らかにして行く過程は優れたミステリを読んでいるかのように知的興奮を掻き立てられます。

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タイトルにある「オリガ・モリソヴナ」というのは米原さんが通ったソビエト学校(日本の小学校+中学校に相当)に実在した名物舞踏教師です。このオリガのキャラがめちゃくちゃ濃くて、それがこの作品を活き活きとした魅力あるものにするのに大きく預かっています。オリガは年齢不詳の老女ですが、踊りを踊らさせたら天下一品で、よく見ると結構美女。踊りの先生としても一流。気風(きっぷ)のいい竹を割ったような性格で、しかし口も悪い。

ほめ殺しが特技で、先生が「天才!」と言ったら「うすのろ!」の、「美の極致!」と言ったら「まるでダメ!」の意味だというのは生徒皆んなが知っています。タイトルにある「反語法」というのはこのことを指しています。罵倒語の語彙も豊富で、これがすさまじい。とても女性や子供には聞かせられない単語が連なる(と言ってもモリソヴナ先生は子供に向かって言ってるわけですが)。例えばこんな具合。なお、[ ]内は相当する日本の言葉。

「去勢豚はメス豚の上にまたがってから考える」 [泥棒を捕らえてから縄をなう]
「自分のチンボコより高くは飛べない」
「頭の中糞でも詰まってんのか!」
「他人の掌中にあるチンポコは太く見える」 [隣の芝生は青く見える]
「七面鳥は思案のあげくスープの出汁になっちまった」 [下手な考え休むに似たり]

オリガではなく別の先生が終業ベルが鳴ると同時に席を立とうとした生徒たちに言った次の言葉も、優れた金言のようで面白く、ちょっと感心しました。

「始業ベルは生徒のために鳴るが、終業ベルは教師のために鳴る」(意味わかりますよね?)

さて、物語は主人公・弘世志摩(当然米原さんがモデル)が日本に戻ってから三十数年経った今、かつて少女時代を過ごしたプラハやモスクワへと思い出探しの旅(いわゆる感傷旅行=センチメンタル・ジャーニー)に行くお話です。

ただ、単なる感傷旅行ではなく、ひとつの大きなテーマがあります。それは、ソビエト学校時代のさまざまな謎、とりわけオリガにまつわる謎を明らかにすることです。加えて、大親友だったカーチャ、初恋の人レオニード、級友にしてダンスの天才そしてオリガの娘(?)でもあるジーナに会うという目的もあります。

志摩はロシアのお役所の官僚主義(申請してから許可が出るまで三ヶ月!)に悩まされながらも粘り強く調査を進め、過去を手繰り寄せていきます。モスクワにあるロシア外務省資料館での資料閲覧、オリガや学友たちが語っていた言葉から推測しての学校・施設・機関(その中にはあのボリショイ劇場付属バレー学校も含まれる!)の訪問、新聞・雑誌・書籍・論文などの調査。

お役所は官僚主義的で硬直していますが、調査の過程で出会う人々は逆にとても親切で、真摯に志摩の対応をしてくれます。その姿にロシア人や東欧の人々に対するイメージが変わること請け合いです。

そういう努力によってじわじわと昔の謎がほどけていく過程は優れたミステリそのもの。読者は志摩と一緒に謎解きをしていくような感覚で謎解きの醍醐味を味わえます。そして、ほどけた謎がまた新たな謎を生んで徐々にそのスケールを増していきます。そして、最後に明らかになる事実はもう半端じゃありません。あっと驚くこと請け合いです。そしてその中には涙なくしては読めない感動秘話も。

そして、志摩はカーチャやレオニード、ジーナたちとの再会を果たすことができるのか? そもそも彼女/彼たちは生存しているのか? その興味も興趣を盛り上げます。

過去を探すお話って、もうそれだけでも面白いのに、その過去がこんなにすごい上に、それを明らかにしていく過程がスリリングなんですから、もう面白さ百倍です。じっちゃん、脱帽の一品でした。

【じっちゃんの評価:★★★★】
蛇足
これだけ褒めながら満点になっていないのは、最後の方の謎解きが"犯人の告白手記"に頼っているところ(もちろん、この小説には犯人はいないので、あくまで比喩的な意味ですが)。ミステリ読みとしては、そこらあたりにちょっぴり不満を感じました。また、日本に対する洋行帰り的批判も鼻につきました。

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COMMENT

米原万里さんは読んだ事ないです。『打ちのめされるようなすごい本』でしたっけ?あれを読んでみたいと思っていました。
でも、じっちゃんさんのレビュー読んで、こっちを先に読むことにしよーって(^.^)面白そうですね!

のばらさん、おばんです~!

>米原万里さんは読んだ事ないです。
私も今回がはじめてでした。

>『打ちのめされるようなすごい本』でしたっけ?あれを読んでみたいと思っていました。
私も興味ありですが、読書本を読んでまた積ン読本が増えるのも、ねっ?

>でも、じっちゃんさんのレビュー読んで、こっちを先に読むことにしよーって(^.^)
ありがとうございます!
ホント、これはおススメでございます。

ぜひ読んでみたいです

昔、ロシアの子と文通してたこともあり、また、親戚がロシアに行ってしまったこともあり、わたしにとってちょっと特別な国です。
このレビュー読んで興味いっぱい。
ぜひ手に入れて読んでみます。

米原さんの本はほぼ全部読んでいるのですが、これはフィクションということでなんとなく読まずにいました。彼女の真骨頂はエッセイだと思っていたもので。でも、じっちゃんさんのレビューをみると、なるほど読んでみたくなりますね、これは。

おむすびさん、空犬さん、おはようございます。

v-34 おむすびさん

>昔、ロシアの子と文通してたこともあり、また、親戚がロシアに行ってしまったこともあり
ええっ! これも半端じゃない事実ですね。オドロキ。

これは読むっきゃないですね。

v-34 空犬さん
>米原さんの本はほぼ全部読んでいるのですが
こりゃまたびっくり。すごいですね。

>彼女の真骨頂はエッセイだと思っていたもので
私もこの本を読んだのを契機に米原さんのエッセイも読んでみたいと思っています。

>じっちゃんさんのレビューをみると、なるほど読んでみたくなりますね
是非お読みください!

 『オリガ・モリゾヴナの反語法』、読みました。以前から「『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』をそのうち読もう」とは、思っていました。でも、私の場合「そのうち」が、すぐに2年3年5年10年となってしまうこともあります。
 じっちゃんさんの強いお勧めがあったので、『嘘つき・・』をまず読み、「面白い!!!」という勢いで『オリガ・・』も一気に読了しました。
 読んで良かったです。これを読まずに死んでしまったら、悔いが残った、と思うほどに。
 じっちゃんさんに、大感謝です。

アミーシカさん、おはようございます。

私の押しで『オリガ』を読んでくださり、光栄です。
また、気に入っていただけたようでうれしいです。
『嘘つき・・・』の方はまだ読んでいません。
「そのうち」読もうと、アマゾンの買い物かごに入ったきりとなっております(;^_^A
アミーシカさんが気に入られたようなので、これを機会に読みます。

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