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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
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血湧き肉躍るローマ版三国志-『ハンニバル戦記』


塩野 七生 / 新潮社(2002/06) ¥380
Amazonランキング:4500位
Amazonおすすめ度:


ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中) 新潮文庫 ¥460
ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下) 新潮文庫 ¥420

急速に成長するローマと、北アフリカの大国カルタゴとの激突(ポエニ戦役)を描く『ハンニバル戦記』ですが、いやあ面白かった、燃えました。吉川英治の『三国志』の興奮がよみがえりました。もっとも二国間の激突なので『三国志』より『項羽と劉邦』に擬する方が適切かも知れませんが。

3巻中特に面白いのは、アレキサンダー大王に次ぐ名将と言われ、本書のタイトルにもなっているハンニバルがカルタゴの将軍として登場する中巻-第二次ポエニ戦役からです。

ハンニバルは、大軍を率い象(!)も連れて(※)アルプス越えをし、北からイタリア本土に攻め込むという常識はずれの戦法を取ってローマ人の度肝を抜きます。これによりローマは、イタリア統一後始めて本土を他国に侵略されるという屈辱を味わいます。天才的な戦術家であるハンニバルは向かうところ敵なし、イタリア半島を蹂躙して、ローマにまで攻め寄ります。
 ※カルタゴ独特の戦法で象を現代の戦車のように使う。

そして、窮状にあるローマの救世主としてひとりの名将が登場します。ハンニバルとともに古代の名将ベスト5を選べば必ず入るといわれ、カエサルとともにローマ史に燦然とその名を残す名将スキピオです。

--------------------
スキピオの登場振りは水際立っています。本書の中からスキピオの登場シーンを切り出して紹介してみましょう。

「こうして、第二次ポエニ戦役の舞台に、もうひとりの天才的な武将が登場する。アレキサンダー大王の最も優秀な弟子がハンニバルであるとすれば、そのハンニバルの最も優れた弟子は、このスキピオではないかと思われる。そして、アレクサンダーは弟子の才能を試験する機会を持たずに世を去ったが、それが彼の幸運でもあったのだが、ハンニバルの場合はそうはならなかったのであった。」

思わず「待ってました、成田屋!」とでも声を掛けたくなります。塩野さんも場面にふさわしく大見得を切ってますね。

スキピオの登場によって2人の天才的戦術家の対決が幕を開け、それとともに物語の面白さは再度ギアチェンジしトップへと入ります。この後はもう巻措くあたわざる面白さです。

さて、このように並び称されるハンニバルとスキピオですが、人物像はかなり異なります。自己に厳しくストイックな孤高の将軍ハンニバル。ハンサムで人なつっこく、皆から好かれる愛すべき人物スキピオ。どちらも魅力的な人物であることは間違いありません。一方で戦術家としては共通点が多いです。従来の慣習にとらわれず独創的な戦法を編み出すこと、情報戦略に長けていたこと、行動がきわめて迅速だったことなど。こうして書くと2人とも日本の織田信長に通ずるものがありますね。

この2人は読者の期待通り数々の名勝負を繰り広げ、その一つ一つが手に汗握る面白さですが、それらについていちいち解説していてはいくら紙面があっても足りませんし、これから読まれる方の興をそぎかねないのでそれは控えるとして、ただ一言「投げも投げたり、打つも打ったり」ですと言っておきましょう(たとえが古いなあ)。

2人の勝敗を分けるのは、2人の個人的な資質の差(戦術家としてはハンニバルの方が上だが、外交を含めた政治力ではスキピオが優る)もさることながら、2人が属する国の資質の差です。2人に対する本国からの支援の強弱に加えて、『ローマ人の物語〈1〉』の感想で「このように他民族を(敗者であっても)受入れ同化させるやり方がローマの強大化に大きく寄与した」と書いた、そのローマの強さがここでも遺憾なく発揮されます。

それにしても、この古今稀なる2人の名将が同時期にライバル国で生まれ、対決するというのはなんという奇跡的な偶然でしょうか。作者は言います。

「ハンニバルとスキピオは、古代の名将五人をあげるとすれば、必ず入る二人である。現代に至るまでのすべての歴史で、優れた武将を十人あげよと言われても、二人とも確実に入るにちがいない。歴史は数々の優れた武将を産んできたが、同じ格の才能をもつ者同士が会戦で対決するのは、実にまれな例になる」

こんな奇跡的なシンクロニシティを生んだ天の配剤に感謝です。おかげで、2200年以上も後にこんな面白い物語を読めるのですから。

さて、この物語、ハラハラドキドキだけではありません。泣かせどころもあります。例えば、カルタゴの同盟国であるヌミディアの王マシニッサとスキピオの友情。王子時代のマシニッサはスキピオと戦って捕虜となります。スキピオは、このマシニッサが自分の父を戦死させた張本人だというのに、咎めるどころか"将来の布石"のために解放してしまいます。そして、数年後カルタゴを攻めたスキピオは、その布石を生かすべくマシニッサに同盟を申し込みます。しかし、その時のマシニッサは落魄してもはや王とは呼べない状態になっています。

わずか二百騎を従えてスキピオの前に現れたマシニッサはスキピオの眼をまっすぐ見ながら言います。「今のわたしにはあなたに提供できるものはこのわたししかいない」と。スキピオは内心落胆しつつも、それをいつもの人なつっこい微笑で包みながら答えます。「わたしには、それで充分だ」

きゃ~、かっこいい! しびれます。この後スキピオはマシニッサを二百騎しか持たない外国人としてではなく対等な仲間として扱い、旧来の友人レリウスとともに3人で共同戦線を張っていきます。まさに「敗戦国を対等に扱う」ローマ人そのもののあり方です。そして、これがハンニバルを打ち破る大きな力となっていきます。

また、あのアルキメデスがローマ軍の敵として登場し、その頭脳を駆使してローマをさんざん悩ませるという楽しいエピソードもあります。

そして、この『ハンニバル戦記』でローマに大きな転機が訪れます。それまで必ずしも帝国主義ではなかったローマが帝国主義へと一歩を踏み出すのです。そのきっかけを作るのは、かつては地中海世界をリードしていながら、今は政治的にも軍事的にも二流国と成り下がったギリシャですが、その間の事情は書くと長くなるので割愛します。興味のある方は実際に本書をご覧ください。

ただ、このギリシャに対する作者の筆致はとても辛らつで、ギリシャの方が読んだら相当腹を立てるのではないでしょうか。

【じっちゃんの評価:★★★★★】

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COMMENT

どうもYです。
さすが!この本の魅力が伝わる記事を書かれますねぇ。
この間読んだところですが、興奮が蘇りました。

>ギリシャに対する作者の筆致はとても辛らつ
そうですよねぇ。塩野さんって好き嫌い凄く出る人だなと思います。
スキピオの事好きだなとか大カトーは嫌いだなとか読んでてわかるんですよねi-229

それにしても記事からじっちゃんさんの興奮ぶりがうかがえて、思わず笑ってしまいましたi-179
「うんうん、わかる、わかる」って感じでした。

Yさん、おばんです!
過分なお言葉ありがとうございます。
そう言っていただけるとうれしいです。

>スキピオの事好きだなとか大カトーは嫌いだなとか読んでてわかるんですよね
ほんと、そうですよね。こういう人好きです。
私は塩野さんを信用できる人と認定しました!

>スキピオの事好きだなとか大カトーは嫌いだなとか読んでてわかるんですよね

カエサル編では、もっと極端に好き嫌いが出てますよね(笑)。と言うかきっと、カエサルが好きで好きでたまらないんだな、って感じ(笑)。
大カトーは、ボクもこれで嫌いになりました(笑)。

個人的には、カエサルよりスキピオ・アフリカヌスの方が好きですが。三国志みたいで燃えますよね!

たかさん、おはようございます。
ふんふん、なるほど。
私もこの本読むまでは、大カトー=偉大な人っていうぼんやりした思いしかなかったんですが、この本読んでキライになりました(笑

スキピオはカッコいいですよね。カエサルにも期待です。

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こんばんわです~。
私もトラックバックさせて頂きました。
トラックバックしたのってほぼ初めてに近いので緊張しました…。

ではでは

Yさん、トラバありがとうございました。

>トラックバックしたのってほぼ初めてに近いので
おやおや、そうなんですか。
私も最初はそうだったんだろうな。
もう忘れちゃってますが(^.^;
初心忘るるべからずですね。

TBありがとうございましたあー。こちらからもさせて頂きました!

たかさん、トラバありがとうございました。

いつもいつもタイミングを逃したコメントですみません。
でも、僕も大好きなもんで。
スキピオ、かっこよかったですよね。
というより、昔の大人物はどの人もすごくかっこいい、とか思ってしまったり。
ここまでくると、韓流ブームにのせられるおばちゃんみたいですねw

それにしても、いつもいつもきれいなレビューですよね。
既に読んだのに、また読みたくなりました。
僕もいつかはビシっとしたレビューを書けるようになりたいものです。
では、失礼致しました。

Mathyさん、こんばんは。

そうか、Mathyさんも『ローマ人の物語』読まれてましたもんね。
今何巻まで読まれたんですか?

>昔の大人物はどの人もすごくかっこいい、とか思ってしまったり。
確かに。昔の人物は自分で想像を膨らましてしまいますからね、
それもたいていいい方に。
現代は大人物が見当たらない気がしますが、
そういう意味では同時代の人は不利ですよね。
例えば同時代の人は織田信長とか勝海舟とか伊藤博文とか
どう見てたんでしょうね。

レビューお褒めいただき恐縮です。
ありがとうございました。

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