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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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すぐ身近にある冤罪の恐怖-『左手の証明』

左手の証明
小澤 実 / ナナ・コーポレート・コミュニケーション(2007/06)
Amazonランキング:20997位
Amazonおすすめ度:


痴漢事件で逆転無罪 四三歳の男性に東京高裁判決 この二年を返せ(朝日新聞)
「痴漢行為」逆転無罪 東京高裁「警察のずさん捜査」(毎日新聞)
「痴漢」逆転無罪 「第三者の可能性」(読売新聞)

昨年(3月9日)こうした見出しが各紙を飾ったことを皆さんは覚えておられるでしょうか。私は鮮明に覚えています。通勤途中のごく平凡なサラリーマンが、女子高校生に痴漢と間違えられて警察に突き出されてしまい、逮捕・勾留の挙句一審で有罪宣告を受け、その後ようやく控訴審で逆転無罪を勝ち取ったという事件です。

この事件を知って、世の男性諸氏は私同様震撼する思いだったのではないでしょうか? そして、この事件に限らず近頃こうした「痴漢冤罪」事件をよく目にします。

「以前は冤罪事件と言われても、別世界の出来事のように感じていた。ところが、ある日『痴漢冤罪』という言葉を眼にした。驚愕した。冤罪はひとごとではなく、すごく身近にあった」

これは、今回紹介する『左手の証明』の著者・小澤実さんの言葉ですが、まったくその通りです。もし、自分が身に覚えのない痴漢行為で逮捕されてしまったら・・・・。家族は、仕事は、自分の名誉は? ああ、考えただけでも恐ろしい。

私自身『痴漢冤罪』事件があることを知って以来、電車の中ではできるだけ痴漢に間違われないような工夫をするようになりました。若い女性にはできるだけ近寄らない、手は下に下げずにできるだけ上に上げておく、空いた手はつり革を掴むなどして遊ばせておかない等。笑うなかれ、本人は真剣なんです。

それはともかく、そもそもどうしてこういう事件が起きてしまうのか。被害者のサラリーマンはなぜ痴漢と間違われたのか? なぜ警察でも検察でも一審でも潔白を証明できなかったのか? 家族はこの間どのような気持ちで過ごしていたのか? 勤め先の反応は? どのようにして最終的に無罪を勝ち取ったのか?・・・・いろいろな「?」が涌いてきます。そんなわけで、この事件を扱った本-『左手の証明』(小澤実)を書店で見かけた時は、こうした「?」を解き明かすチャンスと、迷うことなく手に取りレジへと運びました。

--------------------
この本を読んでいると、あまりに理不尽なできごとの連続に、恐怖とともにはらわたが煮えくり返るような怒りを覚えます。正弘(痴漢と間違われた主人公。仮名)を痴漢と誤解して駅員に突き出した女子高生については、被害者でもあり、また気も動転していたでしょうから、間違えたことは仕方がないとしても、ろくに話も聞かずにいきなり警察を呼ぶ西武鉄道高田馬場駅の駅員はいかがなものかと思いますし、はなっから正弘をクロと決めつけて、踏むべき手順も踏まないずさんな取調べのあげく、強引に正弘を犯人に仕立ててしまう警察(※)や、その警察の主張を鵜呑みにして碌な調査もせず起訴してしまう検察に至って何をかいわんやです。
 ※今社保庁など公務員の腐敗が叫ばれていますが、警察も「立派な」公務員であり、
   責任を取ることを知らないことでは社保庁に負けない組織ですから、社保庁と同じくらい
   腐っているのではないかと私は睨んでおります。

そして、とどめが裁判官。「推定無罪」(※)どころか「推定有罪」の姿勢で裁判に臨み、警察や検察が困ると助け舟を出し、弁護側の訊問には横槍を入れ、挙句の果てには裁判に提出されなかった証拠までを根拠にして正弘を有罪にしてしまいます。もうあきれて口がふさがりません。
 ※推定無罪とは「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」という立証責任の
   考え方に基づいた近代刑事法の基本原則(Wikipediaより)。「疑わしきは罰せず」
   の精神の底にある考え方ですね。

ああ恐ろしい。もしあなたが被疑者だとして、警察や検察があなたをクロだと決めたら、“真実がどうであるかには一切関係なく”彼らはあなたを何が何でも有罪にしてしまうのです。そして「公正不偏な」裁判官殿は、それを助けてくれるどころか、冤罪作りに加担してしまうのです。そして痴漢などの、官憲が「めんどいなあ、こんなんさっさと片付けちゃお」と思うような「小さな」犯罪であればあるほど、その可能性が高いわけです。そしてその結果は、冤罪の被害者にとっては「小さい」どころの話ではないのです。

この本の主人公・正弘はこんなことになりました。

彼は警察の「罪を認めちゃえよ、楽になるから」という誘導に負けず、がんとして罪を認めなかったため、こういう罪では異例のことだそうですが、3ヶ月以上も(!)拘留されてしまいます。そして約1年後に一審で有罪判決を受け、控訴。その控訴審でようやく無罪を勝ち取るのですが、それまでに2年半弱が経っています。その間正弘も妻も「うつ」に罹り、妻は自殺未遂、家族崩壊の寸前にまで至ります。そして冤罪が晴れた後も二人の病は癒えず、いまだに病に苦しんでいるそうです。警察の、検察の、裁判官の、「早くやっつけてしまえ」という軽い無責任な気持ちがこんなに重たい結果をひき起こしたかと思うとやり切れません。

救いは、正弘の勤め先が正弘を全面的に信頼してくれたこと。彼を解雇しないどころか支援の手を延ばし、優秀な弁護団を雇ったり、支援の輪を広げてくれます。職場以外の正弘の友人たちも正弘を信じ支援してくれます。やっぱり、持つべきは友ですね。

また、痴漢被害者の女子高校生に悪気がなかったのも救いといえば救いでしょうか。最近は示談金稼ぎのために痴漢を捏造する女子高生もいるということなので。

さて、この本は法廷シーンを軸にして展開します。したがって、一種の法廷ミステリとしても読めます。実際、弁護団が証人の証言や証拠品の提示によって次々と驚くべき真相を明らかにしていく展開はハラハラドキドキ・びっくり、まさにミステリそのものです。

そこで明かされる警察のずさんな捜査ぶりには誰しもびっくり仰天するでしょう。その内容を明かしてしまいますと、これから読まれる方の興をそぎかねないので控えますが、ひとつだけ例をあげさせていただきますと・・・・警察は痴漢現場の捜査に行って写真まで撮ったがそれは痴漢現場とは違うホームだった。ね?これだけでもいかにずさんかわかるでしょう。

そして、法廷でそうした事実を突きつけられた警察の対応も、過ちを認めて謝罪するどころか、開き直ってひたすら保身に走る始末。ま、警察に不祥事があったときに必ず見せられる光景であり、珍しいことじゃありませんがね。

警察・検察・裁判所の三馬鹿トリオの無責任で矜持のかけらも感じられない対応に腹を立てたり、主人公とその家族の置かれた境遇に涙したり、弁護団や支援者の奮闘ぶりに感動したり、法廷でのミステリ的な展開にはらはらどきどきしたりと、物語としての面白さもかなりのものです。私は読み始めたら止まらず、一気読みでした。ただ、あえて難を言えば、ちょっと斬り込み不足な点が感じられることでしょうか。

【じっちゃんの評価:★★★】

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COMMENT

こんにちは。
僕も常々ビクビクしながら電車に乗っているもので、じっちゃんさんの電車での対処は、全く笑えないどころか共感でいっぱいです。
本当に怖いですよね。

そして、それだけビクビクしてても送られる先が、こんなに酷い場所だとすると、まだまだ対処が足りない気すらしてきます。
せめてもの対処に、この本は見かけたら、手にとってみることにします。

それにしても、この問題も長いですよね。
そろそろクリティカルな解決策を期待したいところです。

こんばんは。
ほんと司法の腐敗具合は政治同様に深刻ですよね。
ここがしっかりしてればまだ国もなんとかなると思うのですが。
最近の冤罪事件の多さや警察関連の事件の多さに辟易としています。
この痴漢犯罪は私たち男性には身近で
そのくせ人生を壊してしまう可能性があるので
ホントどうにかして欲しいものです。
それが難しいのだとは思いますが・・・

Mathyさん、おはようございます。

Mathyさんも満員電車の中でびくびくしておられますか。

私、そもそも最近は少なくとも通勤では満員電車に乗らなくなったので
ちょっと安心です。
電車に乗らないのではなく、朝はすっごく早く出るので
満員にならないし、帰りは始発駅からの乗車なので
座って来れるのです。

裁判員制度がこうした問題を解決することになるのか
逆に火に油を注ぐことになるのか、見ものですね。

シンさん、おはようございます。

>ほんと司法の腐敗具合は政治同様に深刻ですよね。
ついでに一部お役所もね。

>ここがしっかりしてればまだ国もなんとかなると思うのですが。
なんていうか、自分の職務に対しての誇りってもんが
感じられませんよね。
どんな職業でも「食い扶持」としての意味の他に
それを通じて世の中に貢献するという気概がないといけない
と思うんですが。

>最近の冤罪事件の多さや警察関連の事件の多さに辟易としています。
ご同様です。
例のたてこもり事件(SAT隊員が殉職)や、
まだ犯人が見つかっていないイギリス人女性殺害事件とか
最近警察の無能ぶりは際立っています。

>この痴漢犯罪は私たち男性には身近で
>そのくせ人生を壊してしまう可能性があるので
>ホントどうにかして欲しいものです。
まったくその通り。

>それが難しいのだとは思いますが・・・
自分で守るしかないんでしょうね。
まずは痴漢に間違われないように。
万が一間違えられたら?
警察に行ったらおしまいなので、
警察に突き出される前に
涙をのんで相手の女性に謝って
金で解決するしかないかな。

その捜査の杜撰さや裁判の無茶さも冤罪も全部大変な問題なのですが、なんだかね、この手の話では、最初の女子高生が「痴漢された」という犯罪の部分がほったらかしな気がして仕方ありません。まずは痴漢をなんとかしてもらえないものかと。これは私が女性だからよけいそう思うのかもしれませんが。
何から何まで大問題ですね・・・。

仁香さん、こんばんは。

確かにおっしゃる通りですね。
男性の立場からすると「冤罪怖い」ということが
クローズアップされてしまいますが、
女性の立場からされると、痴漢そのものの怖さが
先に来るでしょうね。
この本の事件の場合も正弘の後ろに立っていた男が
最も怪しいのですが、警察が正弘を犯人と決めつけて
そこら辺の捜査をまったくしなかったために、
真相は分からずじまいです。
警察が被害者の女性と正弘の周囲にいた人を
探し出して証言を取っていたら、何らかの進展が
あったかもしれませんが。
正弘を冤罪に陥れた警察の怠慢は、
そのまんま真犯人に都合よく働いてしまったわけで
警察は二重の罪を犯したともいえます。

また、「痴漢」の罪に対して世の男性陣は
よりいっそう厳しい眼を持つべきでしょうね。

「それでもボクはやっていない」という映画を見ましたが、鑑賞後おもわず夫に「気をつけてな。誤解されんようにしてな」と言ってしまいました。
私も電車通勤の頃は何度か恐い目にあったし、あの恐怖は男の人にはわからないだろうと思います。
でも冤罪で苦しむ人があるかと思うと、勇気を出して悪い人を告発しようとしても躊躇してしまうかもしれません。
司法よ、しっかりして、と思いますよね。

まーめさん、おはようございます。

この事件は「それでもボクはやっていない」のモデルになっていて
この映画の監督である周防正行さんはこの事件の裁判の
傍聴に来ています。
同じく傍聴していた『左手の証明』の著者が気が付いて
周防監督と声を交わしたそうです。

やっぱり、まーめさんも電車ではいやな目に合われていますか。
卑劣な犯罪ですよね、痴漢は。
最近東京では女性専用車両なんてのができてますが、
まーめさんところではどうでしょうか?

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