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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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ご当地ミステリ?!-『イニシエーション・ラブ』


乾 くるみ / 文藝春秋(2007/04)
Amazonランキング:100042位
Amazonおすすめ度:


出会いと別れを描いた普通の恋愛小説だと思って読んでいると、最後の最後に背負い投げを食らうという驚愕のプロットで評判になり、2005年度版『このミス』で12位に輝いた作品の文庫化。

今回はあれこれ論評する前に結論から申します。

--------------------
はっきり言って「驚愕の仕掛け」には関心しませんでした。こういのってよくある手だし、すれっからしのミステリ読みにとっては、おおよそ最後にどうなりそうかは予想がつき、その分驚きは少なかったです。というわけで、ミステリとしては私的にはイマイチ。

でも、この作品の偉いのは「ミステリ」以外の部分が読ませること。こういうワンアイデアの作品ていうのは、驚愕の結末にいたる本体の部分が退屈になりがちなのですが、この作品はそこ・・・・すなわち恋愛小説の部分を、きちんと読ませる物語として仕立て上げていて、最後まで飽きさせることなく引っ張ります。

特に感心したのは、出てくる恋愛物語が、テレビのトレンディードラマに出てくるようなカッコいいけどありそうもない物語ではなく、非常に身近で自分にも起こりそうなリアリティが感じられること。

例えば、女性に対して不器用でうぶな主人公・大学生の「たっくん」の心の動きや行動は、私の若い頃のそれに重なってとても共感しました。合コンに誘われて普通なら喜んで行くべきところを、かえって物怖じして苦痛に感じてしまうところ。にもかかわらず、店に一番乗りしてしまうところ。自己紹介で緊張してつまらないことしかしゃべれず、周りが白けさせまいとかえって気を使ってしまうところ。もう私の若い頃そのまんまで、私は甘いようなすっぱいようなほろ苦いような思い出をいっぱい思い出してしまいましたε- (ー ^ ) フッ

笑ってしまったのは、テレビのアナウンサーに似ているいうことで女の子にその物真似を要求され、無理して「えー、さてー」などとやって(※)、途端にいたたまれない気持ちになって真っ赤になり、女の子たちにからかわれるところ。私、まったく同じようなシーンを演じたことがあり、主人公の行動とそれに伴う気持ちの動きが "ひゃくパーセント" 分かりました。
 ※誰の物真似かおわかりですか?

まだまだあります。初めてのデートで気合を入れすぎてちょっとそぐわない格好で行ってしまったり、せっかくの初デートなのに結局マックに行くことになってしまったり、食事の支払を自分が持とうと思ったのに、どうすればいいか分からずもたもたしているうちに、先に相手にワリカンを言い出されてしまったり。「ふむふむそうなんだよなあ。デートし慣れないやつってのはそうなっちゃうんだよなあ」と大いに共感を覚えました。

でも、同じなのはそこまでで、そこからの展開が私とは大いに違います。意中の女の子=マユといい関係になって行きますからね。私、そこには大いに反感を感じました(メ`-´)凸

というわけで、ミステリとしてはいまひとつ感心しないけれど、小説としてはまずまずというのが私の評価です。

【じっちゃんの評価:★★★】

長~い蛇の足
実はですねえ、私がこの小説を最も楽しんだのは、ミステリとか恋愛小説としての面白さとかそういったことではなくて、全く別の要素・・・・実に個人的な要素なんですよね。

それは、この物語の舞台が我が出身地である静岡市だってこと。地名や店名などを初めとして静岡ローカルな話題ががぼんぼん出てきて、それだけでめちゃ楽しめました。

静岡県民なら、冒頭の合コンのシーンでの出席者の名前を見ただけでまずいきなり笑えます。鈴木、渡辺、望月、大石、青島、成岡と、静岡に多い名前ばかりなんだもん(※)。
 ※ちゃんと裏づけデータがあります⇒日本の姓の全国順位データベース:静岡県
   これによると、これらの名前の静岡県への集中度は以下。
    鈴木(11.6%)、渡辺(5.4%)、望月(40.7%)、大石(28.5%)
    青島(61.6%)、成岡(42.1%)
     ⇒う~ん、望月、大石、青島、成岡って多いなとは思っていたけど、
       集中度がこれほどとは思わなかった。

合コンの帰りのシーンでもこんな表現が出てきます。「男四人でタクシーに乗ったのは覚えている。僕が曲金で降りて、他の三人は小鹿近辺まで行くので別れ・・・・・」。実は主人公をはじめ主要な登場人物の多くが静岡大学(※)の学生なんですが、今の文の描写は、市の中心部で飲んで静大方面に帰るとすればこういうルートになるだろうなと、これを読んだだけで土地鑑のある者としては大いにウケます。
 ※静岡では静大(しずだい)と呼んでます。

そして。主人公とマユの初めてのデートでの待ち合わせ場所が静岡市の代表的な公園である青葉公園(札幌の大通り公園の小型版的公園)で、そこから2人が食事に行くのが私もよ~く行った(今でも帰郷するとよく行く)マックだったりするんですよ。別のデートでは、呉服町通り(静岡の目抜き通り)を2人で歩いて行ってその端っこに位置する伊勢丹に行ったり、その後その隣にある吉見書店(静岡ローカルの大型書店。今はない)に寄ったりで、もう2人の歩く道程がすべて目の前に浮かんできます。

さらにしつこく例を追加しますと、マユの住んでいるのが「住吉町という所で、本通りと安西通りの間にある」だったり(ここは我が実家のすぐ近く)、主人公たちの遊びに行く先が静波海水浴場だったり、静岡市民にはウケル話が満載で、もうたまりません。

こんな話、静岡市民以外の方には面白くもなんともないでしょうが、静岡が舞台でこんなにぼんぼん知っている名前が出て来る小説なんて初めてなので、うかれてしまいました。お許しください。

小説の舞台だけでなく、もひとつ驚きの事実が。・・・・っても、たいしたことないんですが・・・・この作者、私の後輩なんですよ。高校も同じならば大学も同じで。ついでに言えば、この小説の主人公たちも私の後輩にあたります。というわけで、私的には非常にローカルな話題で盛り上がってしまいました。そういうわけで、この小説の評価は少し甘めになっているかもしれません。

もひとつ蛇の足
この作者の作品は結構読んでます。後輩だからってわけじゃないですよ。後輩だって知ったのはつい最近なので。この作者は好んで奇を衒った作品を書くのが特徴で、そこが私の琴線に触れるんですよね。読んだ作品名をあげると、『Jの神話』『匣の中』『塔の断章』。一癖も二癖もある作品ばかりで、どれも面白さは保証つき。

特におススメは、処女作でもありメフィスト賞受賞作でもある『Jの神話』。この作品の何がすごいかっていうと、とにかくエロくって、おまけにグロいんです。エログロミステリというジャンルがあったとしたら、1,2位を争うこと間違いなしです。エロい、グロいだけでなく、山田風太郎顔負けの奇想がすごいトンデモ面白本になっています。ジャンル分けしたらホラーミステリってことになるんでしょうが、ホラーとしての怖さもたっぷりあります。

発表されたときも今もあまり評判になっていないですが、それが不思議なくらいの面白さ。面白本大好きな方にはおススメです。ただし、エログロが苦手な方はご注意を。

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COMMENT

初めて聞いた名前ですが、本の名前は覚えがありますね。
初めて聞くので、ググッてきました。
男性なんですね!
舞台が熟知している土地だと感情移入もしやすいですよね。
わたしも「骸の爪」読んだときにそう思いました。
しっかりそことは書いてないけど、「きっとあそこが舞台だ」と思うところがたくさんありましたから。

読んだことのない本、作家でも、こうして書評を読んでおくと、書店や図書館でであったとき、読んでみようかな、と思うので、ありがたいですね。

まーめさん、おはようございます。
男性ってわかりましたか!
その名前からずっと女性だって思われていたんですが
(私もそう思っていました。女性の後輩だって)
実は男性だったんですよね。
さほど名前は売れてなくてこの『イニシエーション・ラブ』で
ようやくやや名前が知れた程度ですが、その作品は面白いです。
是非一度手にとっていただければ。
その場合やはり最初に手にとるのは『イニシエーション・ラブ』がいいですかね。

じっちゃんさん、ズームのご指摘ありがとうございました。
ところがクリックすると、また元に戻ってしまうということで、仕方なく?そのまま読むことにしました。
あれ?ちゃんと読めるじゃない。目がよくなったのかな。
そういえば、ここ数日導引術の目の体操をしていたのです。
結構、効果あるんですね。
さて、この本、私は知りませんでしたが、じっちゃんさんのこの本に対する思いを感じることができました。自分の出身地が舞台になるって、嬉しいですよね。その作家さんは土地を知り尽くしているのか、調べたのか、すごい!という印象です。
へぇ~(トリビア)満点、ですね。
では、また。

みけぼーいさん、おはようございます。

>ところがクリックすると、また元に戻ってしまう
そう、それが「ズーム」機能の難点なんです。
もういちど設定する必要があります。
ブログの文字の大きさ自体を変えられるといいのですが、
私にはまだそこまでのワザがありません。
研究しておきます。

レビューお褒めいただきありがとうございます。
また、お越しくださいませ。

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