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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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伝説の剣豪に出会える・・・『真剣』


海道 龍一朗 / 新潮社(2005/11)
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Amazonおすすめ度:


古本屋で見かけたとき飛びつくようにして買いました。というのは、タイトルに「上泉伊勢守」の名前があったからです。上泉伊勢守信綱は新陰流(※1)の創始者にして「剣聖」と呼ばれる剣の達人であり、剣豪小説や歴史・時代小説を読んでいるとしょっちゅう耳にする著名人ですが、その割には彼を主人公に据えた小説がないからです(※2)。作者の海道龍一朗というのは初めて耳にする名前ですが、この作品で2003年にデビューした新進時代小説作家のようです。
  ※1 新陰流は柳生宗厳に伝えられて、ごぞんじ柳生新陰流となります。
  ※2 この本を読んでから調べたら、池波正太郎の『剣の天地』が上泉伊勢守を
     扱っていることがわかりました。こちらも読もうっと。

最初に言っちゃいますが、これ傑作です。こんな傑作(2003年発表)を存在すら知らずなかったんですから、見逃している傑作の数はどれほどあるのだろうと恐ろしくなってしまいます。

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まず上泉伊勢守信綱の人物造形がいいです。剣の達人らしく、寡黙で毅然として凛々しい。その一方で人間臭さも持っている。超然として怖いもの知らず、向かうところ敵なしの超人としてでなく、腹も立て、恐怖に震えもし、苦悩もする一個の人間として描かれています。実在する剣の達人で畏怖や憧憬だけでなく共感もさせられたのは彼が初めてです。

信綱だけでなく、彼を取り巻く人物・・・師匠の松本備前守、愛州移香斎、兄弟子の額賀信義、父の義綱、最大のライバル宝蔵院胤栄(※1)、信綱を胤栄と引き合わせる北畠具教(※2)、そして柳生新陰流の創始者柳生宗厳・・・そのいずれもが魂の入った魅力的な人物として紙面から立ち上がってきます。そして彼らがみな「漢(おとこ)」しての矜持・・・今風に言えば「品格」・・・を持って凛としているところが、読んでいてグッときます。
  ※1 奈良・興福寺の僧で、十文字槍を使った槍術・宝蔵院流の創始者。吉川英治
     の『宮本武蔵』で宝蔵院流の2代目・胤瞬が武蔵と闘い敗れますが、あれは
     史実でしょうか、それとも吉川英治が作った虚構でしょうか?
  ※2 公家の名門北畠氏の八代目で、伊勢を領地とする戦国大名にして剣豪。

人物造形だけでなく、物語としての面白さも抜群です。

冒頭いきなり北畠具教との立合いから始まりますが、情景が目に浮かび、緊張感が伝わってくるその描写が見事で、いきなりぐいっと引き込まれます。そこからはもう一気呵成。最後の宝蔵院胤栄との行き詰る対決まで密度の濃い物語を一気に読まされます。

少年時代の修行の様子がまずいいです。あの塚原卜伝の兄弟弟子にして鹿島神道流の創始者松本備前守のもとで学ぶのですが、その様子が友情あり、涙あり、悔しさあり、喜びありで読ませます。特に圧巻は卒業試験に相当する「立切仕合」。小屋に一人で籠もって、いつ襲ってくるか分からない二十数名の刺客と三日三晩をかけて闘うものですが、この臨場感、迫力が半端じゃありません。自分も源五郎(綱信の幼名)とともに刺客と闘い、見えざる敵に恐怖する気持ちになります。

そして、物語を締めくくる宝蔵院胤栄との仕合。クライマックスにふさわしい迫力の出来になっています。私のような拙い表現力しか持たないものにはとてもその凄さを伝えることはできませんが、名人と言われる二人の対決には背筋がピンと延びたとだけ言っておきましょう。「達人は達人を知る」と言いますが、両者の互いに対する尊敬の念と、それを基礎にした交流にも胸を打たれます。

それから、それから。この作品にはもう一つ大きな魅力があります。それは、登場人物が使う言葉。一例として柳生宗厳が登場するシーンの彼のセリフを再録してみましょう。

「柳生宗厳でおます。よろしゅうお頼もうします。(中略) 何や、せやったら、あんまり、ええ噂とちゃうんやないのかな」

そうなんです。何と、あの柳生が関西弁を使うのです。彼が大和国柳生庄(奈良県柳生下町)の出身であることを考えれば現実的には当然の話ですが、小説では関西の人間も東京弁を話すのが常です。例えば先ほどの宗厳のセリフも・・・

「柳生宗厳でござる。よろしくお頼み申す。(中略) さようなお話でござれば、さほどいい噂ではないと拝察つかまるが」

・・・てな感じになるはずです。これでも悪くはないのですが、関西弁のセリフの持つリアルさ、ビビッドさにはとても敵いません。宗厳だけでなく、宝蔵院胤栄も、その朋輩や弟子も、信綱の師匠の愛州移香斎も同様に関西弁を使います。名人と呼ばれる剣豪が愛嬌のある関西弁を使うというのは新鮮でもあり、愉快でもあり、胸のすくような体験でした。関西の方が読まれたらより一層の感慨があるのではないでしょうか。

この作品の難点を言えば、物語が短すぎるところ。文庫本にして約600ページと、通常の意味では決して少ない分量ではないのですが、上泉伊勢守信綱という快男子の一生を描くにはそれでも短いです。妻や息子秀胤、その子泰綱との交流はまったく描かれていませんし、柳生宗厳や剣豪大名と呼ばれる足利義輝への新陰流伝授の様子にもほとんど触れられていません。読者としてはこのあたりも読みたかった。

作者によると、当初は上下2巻くらいの分量があったのを、出版にあたって編集者の要望でかなり削ったとのこと。「結果としてそれはよかった」と作者は評価していますが、私としては「何てことしてくれたんだ、編集者さんよ。その削られた部分が読みたかったぜ、俺は!」と叫びたくなってしまいます。是非、削られた部分を復活させた作品を完全版として出して欲しいところです。

【じっちゃんの評価:★★★★】

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COMMENT

こんばんは。
言われて見れば確かに、
彼に焦点になった物語って読んだ記憶がないですね。
じっちゃんさんの評価も高いですしメモしておきます。

こんばんわ。
岩明均の漫画「剣の舞」では飄々とした人物。井上雄彦「バカボンド」では達観した剣の達人として描かれていて、かっこよいなと思っていました。上泉伊勢守信綱は竹刀をつくった人ですよね。あれは漫画の創作でしょうか?そういう逸話も魅力的です。

柳生が関西弁というのは、考えてみればそうですよね。
関西人として少しうれしいです。フィクションでは「マンモス西」的なキャラクターしか関西弁を使いませんから(笑)

シンさん、こんにちは。
上泉伊勢守ご存知なんですね。
さすがです。
有名な割には彼を軸に据えたお話ってなかったんですよね。
そんな中で出たこの小説、いいお話でした。
シンさんも機会があればご一読を。

岩明均の漫画にも出てくるんですか!
『バガボンド』に出るのは当然のようなそうではないような。
(宮本武蔵より1代前の人ですからね)
関西弁で話す柳生というのは新鮮でした。
でも、正直、関西弁だと少し厳粛さには欠けますね(^.^;

上記の「剣の舞」も「バガボンド」も持ってますからね。
漫画も色々と役に立つものです^^
両方ともいい感じの役どころでございますよ。

シンさん、おはようございます。
『バガボンド』は読みかけたことがあります。
評判もいいのでもう一度読んでみようかな。
『剣の舞』もね。

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