プロフィール

じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
管理者ページ

カテゴリ

openclose

お気に入りブログ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『女王国の城』~待ってた甲斐があった江神ものの新作


有栖川 有栖 / 東京創元社(2007/09)
Amazonランキング:3334位
Amazonおすすめ度:


有栖川有栖は私のご贔屓作家のひとり。特に江神二郎が探偵役を務める「学生アリス」シリーズ(※)は大好きで全作品を読んでます(って言ってもこれまでに3作しか発表されていませんが)。贔屓の理由はその端正で美しく品の感じられる作風。もうひとつのシリーズである「作家アリス」シリーズ(または火村シリーズ)はこの点「学生アリス」シリーズに一歩譲ります。
  ※ 名探偵役の名前を取って江神シリーズとも呼ばれる。これまでに『月光ゲーム』
    『孤島パズル』『双頭の悪魔』の3作が発表されており、いずれも傑作だが、私と
    しては作者との最初の出会いであり、その上品な語り口と端正な謎解きに驚か
    された第一作『月光ゲーム』が今でもナンバーワン。

その「学生アリス」シリーズの新作『女王国の城』が前作『双頭の悪魔』(1992年)から15年もの時を置いて発表されました。私を含め新作を待ち続けていたたファンの首はろくろっ首のように長くなってしまいました。作者は『このミス』の97年版(96年末出版)の「私の隠し玉」ですでに「学生アリス」シリーズの新作を予告しているのにね。それからでももう11年以上が経過しています。

でもそうして長いこと待ち続けた甲斐がありました。

--------------------
正直言うと、ミステリとしては不満な部分もないではありませんが、その傷が気にならないくらい、ミステリ以外の部分も合わせたトータルな物語としての出来がすばらしいのです。読み終わった後しばらく呆然自失となるという本はそう多くはないのですが、この本はそういう本のひとつでした。

この本は「学生アリス」シリーズの他の3作同様「嵐の山荘」もの(※)。『月光ゲーム』が火山の爆発、『孤島パズル』が孤島、『双頭の悪魔』が台風とそれに伴う橋の流出で「嵐の山荘」状況が形成されますが、今回はそこにひねりが加えられています。「ひねり」の内容についてはこれから読まれる読者のために伏せておきます。これまでに似たような例がないわけではありませんが、細部まで考慮に入れると私としては初めて見る趣向です。
  ※ 「孤島」もの、「吹雪の山荘」もの、「クローズド・サークル」ものとも呼ばれる。
    「嵐の山荘」のように(嵐などさまざまな要因によって)下界と孤立し、外部との
    連絡が取れない状況で事件(たいてい殺人事件)が発生し、警察の手を借り
    ずにその場にいる関係者だけでその事件を解決しなければならなくなるというも
    の。要するに、本格ミステリにおいて名探偵が思う存分に活躍するために邪魔
    な警察の関与を排除するために考えられた方便。 関係者(容疑者)が限定
    できるという利点もある。

参考:「学生アリス」シリーズ過去の3作品


「学生アリス」シリーズのレギュラーメンバーは、京都にある英都大学の推理小説研究会の面々。部長の江神二郎ほか、望月周平、織田光次郎(以上3名は4回生)、有馬麻里亜、有栖川有栖(アリス。作者と同姓同名)(以上2名は3回生)の5名で構成されます。毎回江神が名探偵役を、アリスが記述役を務めます。

前回の『双頭の悪魔』では紅一点の麻里亜の失踪が事件の始まりとなっていますが、今回は何と江神が失踪します。この江神の失踪の理由がこの物語におけるひとつの謎となります。

江神を追いかけて英都大学推理小説研究会の面々がやってきたのが長野県開田村神倉という辺鄙な村。そこには、ある新興宗教が総本部を置いていて、信徒を集めたコミュニティを形成しています。というと、すぐにオウム真理教を思い浮かべてしまいますが、こちらはオウムとは異なりきわめて平和的な集団。周囲とのトラブルもほとんどありません。そうそう、教祖はうら若き乙女(もちろん美人!)。だから「女王国」なのです。

江神を追って英都大学推理小説研究会の面々は総本部(とても風変わりな建物で、それが「城」と呼ばれる由縁)へと入り込みます。といっても浸入するわけではなく教団の許可を得て。で、読者の期待通り連続殺人事件が発生します。

密室めいたものもありますが、その殺人事件の不可能興味もトリックも大したことがありません。興味の中心は犯人は誰か、その動機は何かということになります(※)。そしてその謎を名探偵江神二郎が他の作品同様クールかつロジカルに解いていきます(えっ、江神の失踪はどうなったかって? それは読んでのお楽しみ)。ただ、結論に至るまでのプロセスがなんだかいつもより少々もたついている感があり、そのことと殺人事件の謎の魅力の乏しさとが、冒頭で書いた「ミステリとしては不満な部分もないではありませんが」という記述につながります。
  ※ ミステリマニアっぽく言うと、「興味の中心はハウダニットではなく、フーダニット、
    ホワイダニットにあります」ということになりましょう。

ただ、その弱点をカバーするだけの趣向がいくつも用意されています。その第一は殺人事件の発生を受けて教団側が取る不可解な行動。その行動の理由が全編を覆う大きな謎となります。そして、この謎の解決を提示する場面が実に鮮やか。この作品を映画化したとすれば、このシーンは見せ場となるでしょう。この謎と解決を読むだけでもこの作品を読む価値があると言ってもいいくらいです。

他にも過去に村で起きた密室(!)殺人事件の謎解き(事件発生当時の、殺人事件とは関係ないと思われた出来事が殺人事件と結びつくところは鮮やか)、登場人物のUFO談義(※)、教団の来歴物語、神聖不可侵の洞窟の謎、ある有名なアクション映画を髣髴とさせる冒険小説的シーン等など、ネタバレ防止のためここには書けないものも含め、さまざまな趣向が加えられていて物語の厚みを増しています。
  ※ 教団は宇宙人がUFOに乗って救世主として現れると信じている。

そして、例によって残り数十ページというところで読者に投げかけられる「読者への挑戦」。エラリー・クイーンの向こうを張ったこの稚戯あふれる趣向もミステリファンにとってはぐっときます。私は、今は挑戦を受ける根性はないので、作者の手のうちで踊らされるがままにそのまま読み進めることとなります。先ほども書いたように、結論に至るまでのプロセスにはもたつきが感じられたものの、最後に披露される江神の推理は実に鮮やかかつ見事でうならされます。また、殺人事件の謎解きと前後して、忘れていたようなものも含めていくつもの謎が解かれていきます。そのカタルシスの快さ! 中には唐突に解かれるものもあって驚かされたりもします。

いつものことながら、伏線も巧みに張られていて、後から振り返って唖然とさせられます。いま「いつものことながら」と書きましたが、今回は特に驚きが大きかったです。何しろ、あそこのあの場面が伏線なんだもんなあ。

「学生アリス」シリーズに共通していることですが、人物造形がよく、登場人物が生身の人間として行動していること、それぞれに物語があることも魅力です。この辺がこのシリーズに端正さを感じる要因のひとつでしょう。

作者はこのシリーズをあと一作予定しているとのことです。願わくは今回のように長く待たされることのないように。また、できれば一作といわず、ずっと書き続けてもらえるといいんだけどなあ。

【じっちゃんの誤読的評価:★★★★】

スポンサーサイト

COMMENT

これから仕事にでかけるところなので、とばし読みしました。
帰宅後もう一度ゆっくりこのブログを読もうと思いました。
面白そうだから・・・

表紙の絵が気に入りました。
特に『双頭の悪魔』がいいですね~!

たまに表紙の絵やデザインに惹かれて中身に関係なく本を買ってしまうことがあります。

その類の本をひとに貸して、外表紙を外して読んで無くした友人がいました。
無地の表紙の本だけが戻ってきました。
(外表紙を汚してはいけないと思ったことがアダとなったらしい・・・)

ほんとにもう~~~<`ヘ´>

ツルツル路面が恐いけど、転ばないようにいってきま~す!

有栖川さんの作品もシリーズが多いのでハマったら金銭的に困るし
どれから読んでいいのかわからなかったので未読なのですが
こういう伏線が巧みに張り巡らされてるタイプは好きなので、
是非とも読んでみたくなりましたね。
他のブログ友達さんも書いてましたが「読者への挑戦」も
個人的にはかなり面白そうですし^^
でもまずは京極さんを読まねばなので、
その後に予定したいと思います。

ケイさん、こんばんわ。
北海道はもう気温零下。
雪も降ってるってことで、もう別世界ですねえ。
無事に帰ってこられたでしょうか。

本格ミステリがお好きなら有栖川さんの作品はおススメです。

シンさん、こんばんわ。

有栖川さん、面白いですよ~。
今は京極夏彦に挑戦中ですか。
京極さんも私のご贔屓です。
てか、京極さんは有栖川さんと比べたら
圧倒的にご贔屓さんが多いです。
京極さんを征服したら
有栖川さんもぜひ。

はじめまして。shiba_motoと申します。
コメント、トラバありがとうございます。
まったく、長いこと待たせてくれた本ですが、待った甲斐あって十分に満足させてもらいました。
またおじゃまします。よろしくお願いします。

shiba_motoさん、早速ご訪問ありがとうございます。
好きな本はもう無条件にいいですね。
shiba_motoさんもブログの記事でおっしゃっていましたが、
伏線の緻密さはすごいです。
堪能しました。

じっちゃんさん、こんにちは。
「学生アリスシリーズ」、おもしろいですよね~!
『女王国~』では、私もあの場面が複線だとは思わなかったデス。
そして、じっちゃんさんの書かれているとおり、主要登場人物のキャラクターがよく、彼らと学生生活を送ってみたくなってくるのが、このシリーズの魅力ですね。
第5作の発刊を、共に首を長くしてお待ちしましょうv-238

はんこさん、ご訪問&コメントありがとうございます。

>『女王国~』では、私もあの場面が複線だとは思わなかったデス。
でしょ、でしょ。最後にびっくりさせられましたよね~。

ほんと、キャラがよくて、長くお付き合いしたくなります。
その意味で5巻目が出るのが楽しみなような怖いような。

EDIT COMMENT

非公開コメント

TRACKBACK


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「女王国の城」

女王国の城 (創元クライム・クラブ)有栖川 有栖 東京創元社 2007-09売り上げランキング : 75おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools 15年って長いですよね?子供が生まれて中学3年生に...

有栖川有栖『女王国の城』

 大学に姿を見せなくなった江神。どうやら行き先は新興宗教の本拠地、神倉らしく、身を案じたアリスたち英都大学推理小説研究会の後輩4人は神倉へ向かう。江神の安否を確認し、手間はかかったものの合流したアリスたち。だが、滞在していた人類協会の総本部で惨劇が起き

女王国の城/有栖川有栖

江神シリーズ、15年ぶりの長編第4作。もちろん<読者への挑戦>がついておりますですよ。 女王国の城 (創元クライム・クラブ)有栖川 有栖 東京創元社 2007-09売り上げランキング : 5923おすすめ平均 ペリパリ長く待たさ
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
全記事表示リンク
検索フォーム
コメント・TBについて

コメント・トラックバックをされる場合は注意事項をご覧ください。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。