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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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あなどれない東大お受験漫画-『ドラゴン桜』



先日予告した『ドラゴン桜』のレビュー本編です。まずは前回の文章をそのまま流用してストーリーのあらましを紹介しましょう。

破綻寸前の落ちこぼれ私立高校に清算役として入った元暴走族あがりの弁護士(桜木建二)が学校建て直しの奇策として落ちこぼれ学生2人(※)を1年で東大に合格させるというプロジェクトを実施する・・・。
  ※ 阿部寛(桜木役)主演のTVドラマでは数名いましたが、漫画では男女2人です。

このあらましを聞いただけで引いてしまう人が多そうですね。実は私もそうだったんですが、とある英語ブログ(ブログ名失念してしまいました)で絶賛していたのをみて読む気になりました。

で、結果は・・・一読驚嘆、感心、感動。実によくできた漫画でありました。タイトルや見かけであなどってはいけないといういい実例です。さて、そのよさがお伝えできるか、試みてみましょう。

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東大を目指すのはたった2人の特進クラス生、水野直美と矢島雄介。TVでは水野直美役を我が静岡出身の長澤まさみちゃんが演じておりました。矢島雄介はというとヤマピーでしたね。

それを教える講師陣が豪華!(といっても漫画の世界での話ですが) いずれも受験界におけるカリスマ的講師である柳鉄之介(数学)、芥山龍三郎(国語)、川口洋(英語)、阿院修太郎(理科)の4人。芥山と阿院はモデルが誰かわかりますね? 姿かたちがモデルとそっくりで笑わせます(※)。
  ※ 冒頭の右側の写真に桜木、水野、矢島も含め全員が描かれておりますので
    ご確認ください。

カリスマと呼ばれるだけあっていずれもユニークかつ私から見ても納得のいく効果的な教授法を持っていて、それも見せ所のひとつ。でも、私が一番感心したのは桜木の指導。独特の人生観に基づく、逆説的とも言える本音トークでの生徒指導には何度もうならされました。

物語も最終盤の場面から例をとりましょう。東大受験を終えたばかりの2人を桜木が学校に呼びます。その目的は何と、龍山高校(あっ、申し遅れましたが、龍山高校というのが舞台となっている高校の名前です)の来年度の入学案内に、東大に合格「した」2人を宣伝用に載せるための写真撮影。当然2人は「まだ合格もしてないのに」「俺たちを完全に商売目的にしてんじゃねえかよ。俺たちは入学者を集めるエサかよ」と猛反発します。それに対する桜木のことばは・・・

「お前らは商売目的でエサ・・・そんなもん初めからわかってんだろうが」

絶句する2人に桜木はかぶせるように言います。「人生完全に脱落してたお前らを救ってやったのは俺だろうが」。そしてページをめくると、桜木の顔のアップとともに「だったらまず・・・受けた恩を俺に返せ。人としての義理を果たせ」。

しびれます。さらに桜木は続けます。

「日本最高の受験テクニックを教えてもらったんだ。ちょっとぐらい学校に貢献してもいいだろ」
「一方的に利益を受け取ったらそれで仕舞いなんて手前勝手な話があるか」
「借りは返す・・・それでやっと対等だ。まともな付き合いはそこから始まるんだ」

どうですか。「愛は惜しみなく一方的に与えよ」的建前論的きれいごとが横行する中(その最高峰はテレビ報道)、世の中はギブアンドテイクなんだということ、権利あるところ義務が必ず生じるという当たり前の真実をさらっと衒いもなく言ってしまう。これってすごくありませんか? 私はしびれました。私自身結構本音トークする方だとは思っているのですが、それでも結構建前論で社会生活を乗り切っているところがありますからね。私に代わって本音トークをしてくれる桜木に溜飲が下がりまくりでした。

肝心なのは、本音トークの目的が生徒をやり込めることではないこと。社会の真実を教えることが生徒のためになるからだという桜木自身の信念に基づいています。

暖かいフォローも桜木は忘れません。このシーンの後、桜木の言葉に納得はしたものの「落ちてたらどうしよう。そうなったら、私、何も返せない」と心配する2人に桜木は言います。

「何の責任も感じる必要はない。(東大を)受けろと勧めたのは俺だ。それに従ってお前たちは精一杯頑張った。俺が求めるのはそこまで・・・。お前たちはそれで十分責任を果たした。受かるか落ちるか・・・結果が出た後の処理は俺の仕事だ」と。

仕事は任せて結果の責任は自分がとる・・・まさに理想の上司像(桜木は先生ですが)ですね。

生徒相手だけではありません。教師たちにも桜木の本音トークは炸裂します。

第一巻冒頭。龍山高校の進学校化と「東大100人合格」の目標を打ち出す桜木に、理想主義的青年教師・高原が反発します。進学校化には反対であり、「生徒にとって魅力ある学園。一人一人の個性を尊重し、人間性と思いやりの心を育む学園」を目指すべきだと。それに対し桜木は「あんたの言う魅力ってなんだ、個性とは・・・人間性とはなんだ! 具体的に説明してみろ」と迫ります。答えに詰まった高原に対して桜木は「目指す目標はそんな曖昧なものではなく、はっきりとしたものでないといけない」と言い、「きちんとした生徒というのは必ず明確な目標を持っている。ゴールが見えればそれに向かって努力するし、逆に目標を持たなければ無気力になる」と。だから「学校の使命は生徒に目標を持たせることであり、大学合格はその目標になりうる」と主張します。

この高原は桜木とは逆の建前論者で、しょっちゅう桜木と衝突します。やる気のないダメ教師ではなく、その逆の理想に燃えた熱血教師なのですが、いわゆる「よい子」で、その主張は常識の枠に捉われた観念的で硬直的なものです。私は常々こうした「よい子」的議論が世の中に大変な害毒を流していると考えていますので、桜木が高原をやり込めるシーンには大いに我が意を得た思いでした。

こうした桜木のユニークで常識に捉われない指導法に加え、大学受験の受験方法や受験テクニックに関する記述も豊富で、受験生やその親にはそれも大いに参考になるでしょう(※)。
  ※ 今まさにぴかぴかの大学受験生である末娘には『ドラゴン桜』を読ませているところ。

受験テクニックの例も紹介したいところですが、すでにずいぶん文章が長くなっていますので、それは「泣いて馬稷を切る」の気持ちで省略して、受験生の親として参考になったことをひとつだけあげて締めくくることにいたします。

センター試験まであと残り1ヶ月強となった頃矢島の両親が桜木を家に招待し「この時期どのように息子に接したらいいか」と相談します。それに対して桜木は「お二人とも雄介君に東大合格してほしいですか?」と訊き返します。「当然だ」と答える2人に桜木はこう言います。

「子どもを東大に合格させる親は決して『合格してほしい』とは思っていません」

えっ、何?何?・・・と思いませんか。私は思いました。矢島の両親も絶句してしまいます。では子供を東大に合格させる親はどう考えているのか。桜木の答えはこれです。

「それは・・・『どっちでもいい』です」

この答えを聞いた瞬間、私は「なるほど」と思いました。桜木の説明を聞いてみましょう。

「『合格してほしい』と思うのは結果だけを求めているということ。本当は子供のことはどうでもよく自分のことしか考えていない。親は、はやる気持ちを抑えて結果は求めず、努力していること、頑張っていること、それだけに目を向けなければならない。子どもに結果を求めないのは親にしかできない。『受かっても落ちてもどっちでもいい。目標に向かって頑張ることこそが大事』・・・そう親が思えば、それは子どもに伝わり、子どもは結果への恐怖心がなくなり、受験に前向きになる」と。

私はこれを聞いてなるほどと思うと同時にハッとしましたよ。振り返って自分はどうだろうかとね。その答えは・・・ナイショです。ご想像にお任せします。

さて、そろそろ締めくくりましょう。

この漫画、欠点もたくさんあります。ストーリー展開がワンパターン、桜木が自信満々すぎる、桜木の思うとおりに話が進みすぎる・・・などなど。でも、そんな欠点を超えて、今述べたように、桜木やカリスマ講師たちの指導方法が興味深いですし、ストーリー展開もはらはらどきどき結構楽しめます。それに「熱い」です。作者と登場人物の熱気が感じられます。そこに私は何よりも感心しました。

そうそう、大事なことを忘れてました。話の結末です。水野と矢島は果たして東大に合格できたのでしょうか? それは言わぬが花というものですね。関心のある方はご自身の眼でお確かめください。「こうなるのではないか」と私が予想していたような結果になり、そのこと自体にちょっと不満を感じている・・・とだけ言っておきましょう。

【じっちゃんの誤読的評価:★★★★】

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COMMENT

>「子どもを東大に合格させる親は決して『合格してほしい』とは思っていません」

実によく分かります。

接客販売に長年携わってきました。
売り上げを上げる最高のコツは売ろうと思わないことなのです。
(これは語弊があるかもしれませんが・・)

札幌三越の斜め向かいに「4プラ」があります。
その中の小さなお店でバイトをしていたとき、4プラのなかで売り上げトップをとったことがあります。
(すいません。自慢でした<(_ _)>)

この本 溜飲の下がる言葉がぽんぽんでてくるのですね。
マイミクの方のところで今『ファウスト』(ゲーテ)が話題になっています。
それも読んで見なきゃと思っているところです。
ホームズも読みかけているし・・・
順番順番^_^;

ケイさん、こんにちわ!
なるほど、実感ありますね。
ケイさんなら、売り上げトップもわかるような。

『ファウスト』が話題ですか!
レベルが高いですね。
私は読もうとしたことすらないです。
うーむ。

いや、別にレベル高い訳ではないんですよ。
もとはといえば、寺山修司「ポケットに名言を」なんです。
そこにあった
「おのぼりなされ。あるいはお下りなされ。同じことじゃよ。」
の意味について喧々囂々。
悪魔がファウスト博士に言った言葉なんだそうですが・・・。

だれも「ファウスト」を読んでいないし、読む気もないし・・。
でも気になるし・・・ということで~^_^;

そういうことなんですか~。
読めといわれても、
いまさらファウストを読む気はしませんしね。
日本の名作で読んでないのがたくさんありますし、
ドストエフスキーなんかも読んでみたいですしね。

ドラゴン桜はなかなかも名作ですよね。
じっちゃんさんが書いてるように少々ご都合的な部分も多いですが、
桜木の語ることや教育方法は的を得ていることが多く、
よい子ちゃん的発想を植え込もうとしているかのような
硬直している日本の教育とは一線を隔す新しいアプローチとして
十分に検討可能というかしっかり検討してほしいと思うところです。

もうご存知かもですが就職活動をテーマにした「銀のアンカー」
や、
ドラゴン桜のキャラが登場する転職がテーマの「エンゼルバンク」が
同作者の手によってただ今連載されています。
両方とも基本的に同じ系統の漫画ですね。

あと「ファウスト」はなかなかに読みづらいですがまぁまぁ面白いです。
ドストエフスキーは「罪と罰」と「地下室の手記」が好きですね。

すいません。ちょっと横入りして「シン@偽哲学者」さんに・・

でしたら、「おのぼりなされ。あるいはお下りなされ。同じことじゃよ。」の台詞がどんなシチュエーションでいわれたのかをご存知ですか?

「ファウスト」は読んでいないのですが、だいたいのあらすじは知っています。
内容については「ペールギュント」のような印象を持っているのですが・・・。

「罪と罰」は読んだのですが、もう一度読まないと思い出せません。

シンさん、ご同感いただいてうれしいです。

「エンゼルバンク」は知ってましたが、
「銀のアンカー」 は知りませんでした。

「ファウスト」も「罪と罰」も「地下室の手記」も
お読みなんですか。さすがですね。
私はいずれも未読。
「ファウスト」はともかくドストエフスキーは今年中に読みたいです。
(って、あと一ヶ月ちょっとしかないか)

あらら、ケイさんに突っ込まれちゃってますね。
できれば答えてあげてください。

ケイさんもやっぱり「罪と罰」はお読みですか。
うーん、青春の基本図書ですからね。
私も抑えておかないといけないですね。
こりゃ意を決して読むとしますか。

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