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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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人生を二度生きた男~『四千万歩の男(一)』



 江戸時代にあって、きわめて正確な日本地図を作り上げたことで有名な伊能忠敬を取り上げた作品。文庫本で全5巻、しかも1巻が普通の文庫本の2倍強の厚さという大作。まだそのうちの1巻を読み終えたばかりだが、現時点での感想を書いておきたい。

 それほどの分量でありながら、忠敬の事業すべてを描き切っているわけではない。忠敬は9次にわたって全国を測量したが、この作品で描かれるのは第2次測量までにすぎない。作者の井上ひさしの当初の構想では、測量事業すべてを描いたうえで、忠敬の死後「伊能図」(忠敬が作りあげた日本地図をこう呼ぶ)がたどった運命を現代までたどるつもりだったらしいが、本作品ではその全体構想の7分の1程度しかカバーできていないという(※)。

※ 井上は続編を書く意志を持っていたようだが、実現しないままこの世を去ってしまった。

 そうなった理由は作者の凝り性にある。前書きで井上は高らかに言う。

「作者の視点は常に忠敬の右肩の上にある。(中略)加えて、忠敬の日常生活をできるだけすくい取ろうとして、密着細密描写を心がけた。筆者の筆が省略したのは彼が眠っているときぐらいのもので、あとは、どんなに平凡な日の、どんなにつまらない一挙一投足であれ、筆者はそれらを見逃して筆をはぶくことはしなかった」

 これでは長くなるのも当然である。後に井上は「(効率を考えて)やはり史伝体でいくべきだった」と反省している。しかし、だからこそ、内容の濃密さは半端なく、そこが本書の最大の魅力のひとつともなっている。

 忠敬が測量事業を始めたのは、驚くことに、引退後の56歳になってからである。事業家(佐原の大商家の主人)としても大成功し、その事業を息子に任せて50歳で引退するや、念願だった星学・暦学(天文学)の勉強を始め、56歳から死の前年(72歳)までの17年間で3万5千キロ(井上の試算によれば約四千万歩)を歩き通して、日本地図を完成させる。決して天才的な才能があったわけではなく、愚直なまでの誠実さと努力によってこの大事業をやってのけた。

 高齢化が進み、定年退職後も30年前後の人生が残っている現代にあって、「人生を二度生きる」ための、まさにお手本のような人物である。井上がこの作品を書いた動機のひとつにも、人生二山時代を生きる現代人を励ます目的があったという。

 登場人物も豪華だ。忠敬の師匠で寛政の改暦を主導した高橋至時、至時の師匠でケプラーの法則を独自に発見した麻田剛立といった当時一流の天文学者はもちろん、蘭学者の山片蟠桃、戯作者の山東京伝、寛政の改革の松平定信など多士済々。そのどれもが魅力的で、彼らが登場する関連作品を読みたくなってくる。

 中でも興味を惹かれたのが、蘭学者で通詞の志筑忠雄。多数の訳書を残していて、ニュートンの『プリンキピア』を日本に初めて紹介したのは彼であり、そうした訳業のなかで「遠心力」「求心力」「重力」「加速」という訳語、さらには「鎖国」という言葉を考え出したのも彼である。翻訳者の端くれとして、この大先輩には大いに興味を惹かれる。幸いにして志筑を取り上げた歴史書もあるようなので、そのうち読んでみたい。

 なお本書は、いかにも井上らしく、事実だけでなくフィクションも多い。いかにも作り物めいた話も少なくないので、そこをどう捉えるかで評価がわかれるだろう。ぼくとしては「ちょっとやりすぎかな」という感じ。

 まだ1巻を読み終えたばかりなので、全巻を読み終えたところでもう一度感想を書きたい。

P.S.
 本書を読もうと思ったのは、坂東三十三ヵ所巡礼の一環として、忠敬の生まれ故郷である佐原に行くことになったのがきっかけ。佐原へは明7月22日に行く。忠敬旧宅や、忠敬記念館など、ゆかりの場所を巡る予定。
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