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じっちゃん

Author:じっちゃん
翻訳家。
もとコンピュータ技術者。二足の草鞋で翻訳を始め、定年後フリーランサーに。
【趣味】
①読書:ミステリを中心に時代・歴史小説、歴史や科学などのノンフィクション
②四国遍路(2015年11月結願)
③街道歩き(現在敢行中)
④SNS(ブログ、Facebook、Line)
⑤観劇
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日本がまだ若かった時代の壮大な物語~『日本文壇史』



 すいぶん前(今調べてみると2001年だ)に6巻の途中で中断していた伊藤整の『日本文壇史』を再び1巻から読みはじめた。

 明治から大正初期にかけての日本の文壇史を描く24巻の大著。作者伊藤整の死で18巻で途絶したのを、友人の瀬沼茂樹が引き継いで完成させた。

 本書の魅力は輻輳的だ。

 まず、明治維新という政治社会体制の大きな変革期にあって、日本文学界も読本・黄表紙・洒落本という古い形態から近代文学へと変貌を遂げる大変革期であったこと。だから物語がたくさんある(最も分かりやすい例が文語体から口語体への移行と言文一致体の登場)。それが面白い。

 第二に、日本文壇を舞台にした青春群像劇になっていること。逍遥も露伴も美妙も鴎外も子規も紅葉も、主要な登場人物が若い若い。10代の学生だったり、まだ何者でもなかったり、まだ生まれてもいなかったりする。それらの人物がそれぞれの志を抱え、それぞれがその志の実現のために苦闘し、成長し、そして何者にかになっていく。その過程が面白い。

 第三に、そうした登場人物が歴史の中で交錯する。意外な人物が意外な人物と意外な出会いをしたりする(あるいはすれ違ったりする)。それが面白い。登場するのは文学者たちだけではない。伊藤博文、大隈重信、田中正造といった政治家たち、岸田吟香、福地桜痴、黒岩涙香といった新聞人たち、内村鑑三、岡倉天心、中村正直といった文化人たち、福沢諭吉、新島襄、新渡戸稲造といった教育者たち--もう多士済々なんてもんじゃない。それらの人たちが人生航路の中で交錯するのだから、面白くないわけがない。

 第四に、文学界だけでなく、日本全体がまだ若い時代である。近代日本を作るための活動がさまざまな分野で行われている。政治社会体制はもちろん、日本が世界デビューを果たすのも、近代ジャーナリズムが成立するのも、大学が整備されていくのも、北海道が開拓されていくのもこの時代である。日本文壇の動向とともにそうした動きも並行して描かれる。それが面白い。

 それにしても、これだけの壮大な物語をまとめあげた伊藤整の苦労は並大抵ではなかったであろう。膨大な資料を前に格闘の毎日だったはずである。その努力と手腕には頭が下がる思いがする。

 ちなみに、本書における伊藤整の文体には大きな特徴がある。ごちゃごちゃいう前に実例を見てもらおう。

~~~引用開始~~~~
「東京日日新聞」で最も有力な記者は編輯長の岸田吟香であった。岸田は、本名を銀次と言い、この当時銀座の名物男と言われた著名な人物であった。彼は洋学者で新聞記者で薬屋の主人であった。彼は銀座二丁目の東側に住居があって、そこに目薬の店を営んでおり更に補養丸、鎮溜飲、穏通丸等を売った。岸田はこの頃三十七八歳であった。岸田の店のすぐ近くに「東京日日新聞社」即ち日報社があった。……
~~~引用終わり~~~

 こんな調子で、主観をできるだけ排し、客観的な事実だけを淡々と述べていく。「…た」「…た」「…た」と文末に「…た」が続くのも意に介していない。最初は違和感を覚えるが、慣れてくるとかえって心地よい。一見無味乾燥に思えるが、そうではない。意識的な物語化を避けていくなかで、それが総体としてきわめて生き生きとした物語になっていく。そこがとても面白い。

 まだ、1巻を読み終えただけである。まだ、伊藤が書いた分だけでも17巻、それ以外を合わせれば23巻も残っている。あせらず慌てずゆっくりと味わって行こうと思う。
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